投稿者「海部 健三」のアーカイブ

バルト海でウナギ禁漁へ

欧州委員会は、バルト海における全ての商業的漁業及び遊漁によるウナギ漁を2018年より禁止することを決定しました。誤って漁獲したウナギは即座に放流するようにも定められています。

欧州委員会のプレスリリースへのリンク

市民協働型ウナギモニタリングプログラムへの参加を募集します

中央大学ウナギ保全研究ユニットでは、ロンドン動物学会及び日本自然保護協会と提携し、市民協働型のウナギモニタリングプログラムを開始することを計画しています。

背景

ニホンウナギの危機的状況が危惧されているにもかかわらず、個体群が増加しているのか、減少しているのか、正確に把握されていません。その理由の一つには、生息域が散在し、データの取得が困難であることが挙げられます。

市民との協働による調査は、幅広い地域からデータを集めることが可能です。すでにヨーロッパでは市民との協働によるウナギモニタリング調査が行われており、成果を上げています。そこで、ヨーロッパで行われている市民協働型モニタリング調査を、日本国内に導入することを目指します。

手法

国際的な環境保全NGOであるロンドン動物学会がテムズ川で行なっている「テムズ川ウナギ計画」をモデルとして導入します。試行を重ねることにより、日本におけるウナギのモニタリングに適した手法へと修正する予定です。

「テムズ川ウナギ計画」では、ウナギの遡上を阻害する落差工や堰などの河川横断工作物にウナギ魚道をとりつけ、魚道の途中に設置したトラップを用いて遡上数を定量的に観測します。専門家の協力のもと、地域の市民が主体となってウナギの遡上量をモニタリングすることができるシステムです。

ニホンウナギ減少の主要な要因の一つとして、落差工や堰などの河川横断工作物による遡上の阻害が疑われています。このモニタリング計画により、ウナギの魚道の設置が進むことにより、ウナギの遡上を促すことができます。

テムズ川ウナギ計画で使用されているウナギ魚道。途中の箱がトラップ。

テムズ川ウナギ計画で使用されているウナギ魚道。日陰の部分に見える箱がトラップ

魚道の途中に仕掛けられたトラップ。ここでウナギを捕獲するが、トラップを外すとただの魚道にな理、ウナギは自由に上流へと遡上できる。

魚道の途中に仕掛けられたトラップ。ここでウナギを捕獲するが、トラップを外すと通常の魚道となり、ウナギは自由に上流へと遡上できる。

捕獲されたウナギ

捕獲されたウナギ

捕獲したウナギの全長を計測

捕獲したウナギの全長を計測

計数、計測後は上流側へ放流して終了

計数、計測後は上流側へ放流して終了

モニタリングへの参加

このモニタリングプログラムへ、主体的に参加していただける団体や個人を募集します。これから導入のための試行を開始するところですので、状況を伺いながら、実施の可否をご相談させていただきたいと思います。なお、以下の条件を満たしていることが理想です。当該水域の状況を確認のうえ、ご連絡ください。当該水域の状況によっては、ご希望に添えない場合があることをご承知おきください。

  1. 主体的に、継続的にモニタリングを行えること
  2. シラスウナギの来遊がある、または期待できる水系で活動できること
  3. ウナギの遡上を阻害する落差工や堰などの河川横断工作物が存在すること
  4. 組織を形成し、ボランティアでの調査が可能であること
  5. 魚道の設置にあたり、河川管理者との調整が可能であること
  6. 採集調査にあたり、都府県担当者(水産課など)との調整が可能であること
  7. 設置費用をある程度負担できること(費用負担の配分や助成金の獲得方法などについては、相談しましょう)

上記の条件のうち5や6など、行政との調整については、お手伝いさせていただきます。そのほかの項目や、上記項目以外のことでも、お気軽にご相談ください。上記の諸条件がある程度クリアされているか、またはクリアできる可能性があるか、お話ししながら方向を探りましょう。

始めてみないとどの程度うまくいくのかわからない部分があります。モニタリングの試行にお付き合いいただける方は、中央大学の海部までメールでご連絡ください。自然保護団体や漁業協同組合だけでなく、学校やクラブ活動などからの応募も歓迎いたします。

連絡先:以下の研究者情報データベースから、「>>連絡フォームはこちら」をクリックしてください。直接海部にメールを送ることができます。

研究者情報データベースへ

英国で設置が進むウナギ・スクリーン

英国では、一定規模の全ての取水施設に、ウナギの迷入を防ぐ「ウナギ・スクリーン」を設置することが義務付けられています。

テムズ川ウォルター取水口
テムズ川流域の上下水道を供給管理するテムズ・ウォーター社のウォルター取水口には、産卵のために河川を下る銀ウナギの迷入を防ぐため、Hydrolox社の「ウナギ・スクリーン」が設置されています。なんと、河川に直に接するスクリーンのメッシュが1.5 mmという細かさです。このスクリーンと、取水速度を毎秒25cmまで遅くすることで、ウナギを含む様々な生物の迷入を防いでいます。細かいメッシュには当然ゴミが付着し、目詰まりを起こしますが、スクリーン内外の水位差からゴミの付着を感知し、自動洗浄するシステムがついています。洗浄には、河川水をポンプアップして用います。
取水速度を抑えるため、旧来の取水口を拡大し、毎秒11m3の取水力を維持しています。ウォルター取水口の改築にかかった総費用は、7,000万円ほどということです。全額テムズ・ウォーター社が負担しています(最終的には水道代に添加されます)。

ウォルター取水口のウナギ・スクリーン全景

ウォルター取水口のウナギ・スクリーン全景

メッシュは1.5mm幅。傷んだ部分を取り替えられるように、細かいパーツの組み合わせでできています

メッシュは1.5mm幅。傷んだ部分を取り替えられるように、細かいパーツの組み合わせでできています

ウナギ・スクリーンを製作、販売しているのはhydrolox社

ウナギ・スクリーンを製作、販売しているのはhydrolox社。英国の規則でHydrolox社の製品の使用が義務付けられているわけではありません

ウナギ・スクリーンの設置を定めた規則
ウナギ・スクリーンの設置は、英国環境庁がウナギの保護のために作成した規則(statutory instrument)によって定められています(規則へのリンクはこちらから)。2009年に定められ、2010年に施行された「The Eels (England and Wales) Regulations 2009」によると、イングランドとウェールズに存在する、24時間で20㎥以上取水するあらゆる取水施設が対象で、スクリーンの設置費用は全額施設管理者の負担とされています。
「The Eels (England and Wales) Regulations 2009」は、2007年にEUが設定した「establishing measures for the recovery of the stock of European eel」を根拠として定められました。

洗浄水を組み上げるポンプ

洗浄水を組み上げるポンプ

スクリーンの外側(テムズ川に面している側)。枝など大きなゴミの侵入を防ぐスクリーンが設置されています

スクリーンの外側(テムズ川に面している側)。木の枝など大きなゴミの侵入を防ぐスクリーンが設置されています

「ウォルトン取水場ウナギスクリーン」の操作室。普段は全自動ですが、この日はマニュアル操作に切り替えて動きを見せてくれました

「ウォルトン取水場ウナギスクリーン」の操作室。普段は全自動ですが、この日はマニュアル操作に切り替えて動きを見せてくれました

対策を進めるには根拠となる法律が必要
このような大規模な対策を進めることができている背景には、根拠となる明確な規則があります。今後ニホンウナギの保全と持続的利用を進めるにあたって、深く考えさせられる事例でした。

第6回旭川うなぎ探検隊募集開始します

今年で第6回を迎える市民参加型調査、旭川うなぎ探検隊の募集を開始します。

カゴ罠を仕掛けた後は,たも網を使って魚を捕る。たも網を使った採集には熟練の技が必要なので,学生スタッフの教える力が必要とされる。

学生ボランティアの指導のもと、魚類の採集調査を行います

日時:2017年8月6日(二の丑の日) 9:30〜12:00
場所:明星堰
主催:旭川うなぎ探検隊実行委員会
定員:35名(全体の定員は45名、うち10名は日本自然保護協会の募集枠)
参加資格:3歳以上、小学生以下は保護者同伴
雨天決行、ただし、増水の危険がある場合は中止します。その他注意事項は、添付のチラシを確認してください。

応募は往復葉書(毎度アナログですみません)、宛先は本年より岡山河川事務所となりますので、ご注意ください。
応募方法は、添付のチラシをご覧ください。
応募の締め切りは7月22日必着ですが、先着順で定員になり次第締め切ります。参加をご希望の方は、お早めの応募をお願いします。

現場の明星堰は百間川の改修工事で大きく環境が変わっています。
このような時こそ、継続的な市民参加型モニタリングの重要性が発揮されます。皆様の応募をお待ちしております。

旭川うなぎ探検隊2017チラシ

採集した魚でミニ水族館が作られる。短時間で21種類もの魚を捕獲することができる,豊かな水域であることが分かる。

採集した魚を展示したミニ水族館

英国テムズ川における市民協働型ウナギ・モニタリング

2017年6月に開催された国際ウナギシンポジウムにあわせて、英国の河川におけるウナギ保全の取り組みを見学させてもらいました。うち、一部を順次ご紹介します。

市民協働のテムズ川ウナギモニタリング
ロンドン動物学会、英国環境庁などが主導し、市民と協働してのウナギをモニタリングするプログラムが発達しています。この市民協働型のウナギモニタリングシステムを、ロンドン動物学会の協力を得て、日本にも導入する予定です。近日中にお知らせできるかと思います。

2017年6月、ロンドン市街を流れるテムズ川で、水門に設置されたウナギ魚道における市民科学によるウナギ遡上量のモニタリングを見学しました。モニタリングは、ロンドン動物学会と英国環境庁が、120名ほどの地域住民とともに行なっているということです。

テムズ川の水門。階段状の構造は、水流を緩やかにするためであり、生物の移動を目的としたものではありません。

テムズ川の水門。階段状の構造は、水流を緩やかにするためであり、生物の移動を目的としたものではありません。

水門には、ウナギの遡上を助けるウナギ用魚道が設置されています。ウナギ魚道の目的は遡上の促進とモニタリング。トラップを用いてウナギの遡上数をモニタリングできますが、トラップを外すとウナギは自由に遡上できます。

テムズ川ウナギ計画で使用されているウナギ魚道。途中の箱がトラップ。

テムズ川ウナギ計画で使用されているウナギ魚道。途中の箱がトラップ。

魚道の途中に仕掛けられたトラップ。ここでウナギを捕獲するが、トラップを外すとただの魚道にな理、ウナギは自由に上流へと遡上できる。

魚道の途中に仕掛けられたトラップ。ここでウナギを捕獲するが、トラップを外すとウナギは自由に上流へと遡上できる。

モニタリングでは、トラップで捕獲されたウナギの個体数を計数し、全長を計測します。重量は計測しません。全長計測はビニール袋の中で行い、麻酔はしません。計数、計測後に上流側へ放流します。

捕獲されたウナギ

捕獲されたヨーロッパウナギ

市民協働のウナギ・モニタリング工程表

市民協働のウナギ・モニタリング工程表

捕獲したウナギの全長を計測

捕獲したウナギの全長を計測

計数、計測後は上流側へ放流して終了

計数、計測後は上流側へ放流して終了

資料
ロンドン動物学会テムズ川ウナギプロジェクトの紹介ページ
テムズ・ウォーター社
Hydrolox社

シラスウナギの密漁・密売におとり調査(米国, 2017年4月8日)

米国メイン州を中心にアメリカウナギ(Anguilla rostrata)のシラスウナギの密漁・密売に対するおとり調査が進んでいる。「Operation Broken Glass」と呼ばれるこの調査は、2016年にも3日間で7名が裁判にかけられるなどの成果を挙げている(2016年10月11日の記事)。メイン州には、アメリカでほぼ唯一のアメリカウナギのシラスウナギを流通させるマーケットが存在する(他にはサウスカロライナにごく小さなマーケット)。今回は、最も歴史が古い、メイン州最大の業者が摘発された。

ヨーロッパでもシラスウナギの密輸を摘発する大規模調査「Operation Lake」が進められた(2017年3月10日の記事)。国内で養殖されているウナギの半分以上が密漁・密売(無報告漁獲)・密輸などの違法な行為を経ていると考えられる日本においても、米国やヨーロッパのような大規模調査が求められる。警視庁だけでなく、国税局による調査も期待される(2016年9月29日の記事)。

アメリカウナギに対する米国内の需要は低い。しかし、ヨーロッパウナギがワシントン条約によって国際商取引を制限され、EUが域外との取引を禁止した2010年以降、ヨーロッパウナギの入手が困難になったことにより、東アジアからの需要が高まり、アメリカウナギのシラスウナギの価格が高騰している(下図はMaine Department of Marine Resourcesより)。2004年から2010年までの米国とカナダからのウナギ輸出量は世界の総輸出量の6%に過ぎなかったが、2011年から2013年では35%を占めるまでに大きくなっている。

メイン州シラスウナギ取引価格

今回の違法行為の摘発は、ウナギ属魚類に対するグローバルな消費行動の一端を示している。ウナギはある特定の一種のみを保護の対象とすると、需要が他種へとシフトする。このためEUは、全ウナギ属魚類を包括して管理すべきであると主張している。第17回ワシントン条約締約国会議(2016年9月)におけるEUの提案は、ヨーロッパウナギ単一種の保護によって他種へ悪影響が生じることを危惧したものであり、米国における捜査は、その危惧が現実のものとなっていることを明らかにした。EUの主張に関する詳細は過去の記事「ワシントン条約CoP17に対するEUの提案をどう解釈するべきか」を参照のこと。

報道へのリンク
https://www.washingtonpost.com/local/public-safety/officials-cracking-down-on-poaching-of-a-slippery-squiggly-and-valuable-commodity–baby-eels/2017/04/06/e84d9ab8-1ad7-11e7-9887-1a5314b56a08_story.html?utm_term=.a8495b65d685

1千万€相当のシラスウナギ密輸人17人逮捕(EU, 2017年3月10日)

ギリシャとスペインの当局が、欧州警察機関と欧州警察機関の支援により、EUから中国へ10t以上のウナギを密輸した疑いがもたれている国際犯罪組織を解体した。

ギリシャとスペインでの強制捜索により17人が逮捕された。また、2百万相当のウナギ2t、データ記憶装置、書類、高級車、現金100万€、ゴールドバーが押収された。今季だけでEUから中国へ1千万€相当のウナギ10tが密輸されたと考えられている。

Karmenu Vella環境、海事・漁業総局長からのコメント:
Lake作戦は、異なるEU加盟国から熱心な現地調査人が協働すれば野生生物の違法取引に対して大きな結果を残せることを示している。野生生物の違法取引に対するEUアクションプランでは協力のための強固な基盤が定めらている。今回のケースでは、ウナギはヨーロッパでは絶滅危惧種とされている。違法な漁業や取引は生残の直接的な脅威になる。我々が生物多様性の保全を考慮しているだけでなく、実際に行動できるという強いメッセージを発信した人々を心から祝福したい。

Rob Wainwright欧州警察機関機関長からのコメント:
今回の任務は、EU加盟国が、国境を越えた組織的な犯罪の対処を成功させる上で、欧州警察機関の支援の恩恵をどれほど受けられるかを示すまた一つ重要な例となった。欧州警察機関加盟国の努力と決断力に敬意を表したい。魚が合法な市場に出回れば、企業が不正な書類を利用してギリシャへ輸送するだろう。ウナギは最終的に「鮮魚」としてアジアへ輸出されていたと思われる。

Abaiaと呼ばれる任務は、フランス、ポルトガル、スペイン、イギリスの連携によるLake作戦の結果に直接つながっている。Lake作戦は、野生生物の違法取引に対するEUアクションプラン(”European Union Action Plan against wildlife trafficking)の枠組において欧州警察機関により2015年に開始された。
AbaiaはEUにおける絶滅危惧種の違法取引に関して、近年最も重要な活動とされている。

ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)の個体群は著しく減少している。国際海洋探査委員会(International Council for Exploration of the Seas , ICES)によると、2011年までにシラスウナギの加入レベル(毎年生まれるウナギの仔魚の数)は1980年代の1%にしかならない。シラスウナギの加入は、統計的には2011年から大きく増加しているが、生活史の全ての成長段階でのウナギの数は非常に少ないままである。

EUの規則により、EU加盟国は、ウナギの40%が河川から産卵場所である海洋へ降河できるように取組を行わなければならない。ヨーロッパウナギは、CITES(Convention on International Trade in Endangered Species、ワシントン条約)の附属書IIにも記載されている。EU加盟国の専門家からなる科学審査グループ(Scientific Review Group)の年次提案により、ヨーロパウナギのEUへの国際的な持ち出しや持ち込みは禁止されている。

元の記事
https://www.europol.europa.eu/newsroom/news/17-arrested-for-smuggling-glass-eels-worth-eur-10-million

シラスウナギ密輸の裏にあるのは「無意味な規制」 −NHKクローズアップ現在+を見て−

2016年12月1日、NHKのクローズアップ現代+で「”白いダイヤ”ウナギ密輸ルートを追え!」が放映されました。番組では、養殖に用いるシラスウナギが、輸出を制限している台湾から香港を経由して日本へと輸出されている状況を指摘しています。シラスウナギ密輸が横行している理由としては、日本における土用の丑の日の集中的な消費との関連が、番組内で強く示唆されました。しかし、実際は輸出制限の存在自体に問題があり、さっさと撤廃してしまうのが最善の選択のようです。

香港「密輸」ルート
番組で紹介されている通り、毎年日本には香港から大量のシラスウナギ(子どものウナギ)が養殖のために輸入されます。香港ではシラスウナギの漁獲は行われていないと考えられており、そのほとんど(または全て)は別の国や地域で漁獲されたものが、香港を経由して日本へと輸入されたものであると考えられています。割合を推測することは困難ですが、これらのうち多くは、シラスウナギの輸出を制限している台湾などからの密輸であると考えられています。2015年漁期においては、日本に輸入された3.0トンのシラスウナギのすべてが、香港から輸出されました。なぜ、このような状態が当たり前になってしまったのでしょう。

2015年漁期に日本国内の養殖場に池入れされたシラスウナギの内訳:輸入された3トンは全て香港からの輸入で、密輸が色濃く疑われる。国内漁獲のうち6割を超える9.6トンは密漁や無報告漁獲など、違法な漁獲。

2015年漁期に日本国内の養殖場に池入れされたシラスウナギの内訳:輸入された3トンは全て香港からの輸入で、密輸が色濃く疑われる。国内漁獲のうち6割を超える9.6トンは密漁や無報告漁獲など、違法な漁獲。

 

「土用の丑の日」が問題なのか
NHKでは、土用の丑の日のある7月にウナギの国内消費が突出して多い事を示したうえで、「丑の日に間に合わせる形での養殖というのが、やっぱり日本では盛んなんですけれども、今、盛んなのは、特に半年で育てる方法です。その場合、7月の出荷に間に合わせるためには、半年前ですから、この1月上旬には遅くとも入れなくちゃいけない。」「少しでも早くということで、香港から仕入れて半年で間に合わせるサイクルが出来上がってしまっているという構図なんですね」と、香港を経由したシラスウナギの密輸が、来遊時期の早い台湾のシラスを欲する日本の養殖と消費のあり方にあると説明します。
しかし、これまでの経緯を考えると、この理屈では説明しきれない部分があります。実は、2007年までは、台湾のシラスウナギが香港経由で密輸されるという問題は無かったのです。土用の丑の日におけるウナギの大量消費は、2007年から始まったわけではありません。国内におけるウナギの消費量が現在の倍以上だった1990年代には、すでに丑の日周辺の大量消費が常態化していました。それでは、なぜ近年になってから、密輸が問題になったのでしょうか。

日本へ輸入されたシラスウナギの輸出国:2007年に日台両国がシラスウナギの輸出を制限した。その後台湾からの輸入が激減し、香港からの輸入が増大した。なお、2007年以前にも香港からはシラスウナギが日本に輸出されており、過去には、必ずしも「香港ルート=密輸」ではなかったことが伺える。NHKクローズアップ現代やその他のマスコミでも、このグラフを取り上げるときのタイムフレームは2001年以降。2000年以前に香港から輸入されている状況を見せないようにしている。マスコミによる情報の選択として、問題を感じることの一つ。

日本へ輸入されたシラスウナギの輸出国:2007年に日台両国がシラスウナギの輸出を制限した。その後台湾からの輸入が激減し、香港からの輸入が増大した。なお、2007年以前にも香港からはシラスウナギが日本に輸出されており、過去には、必ずしも「香港ルート=密輸」ではなかったことが伺える。NHKクローズアップ現代やその他のマスコミでも、このグラフを取り上げるときのタイムフレームは2001年以降。2000年以前に香港から輸入されている状況を見せないようにしている。マスコミによる情報の選択として、問題を感じることの一つ。

 

先に規制したのは日本
そもそも、2007年までは台湾と日本は普通にシラスウナギのやり取りをしていました。台湾と日本のシラスウナギ取引は、違法ではなかったのです。しかし、2007年の10月に台湾がシラスウナギの輸出を制限して以来、香港を経由した密輸が横行するようになりました。台湾がシラスウナギの輸出を制限するようになった理由について、NHKの番組では「資源保護のために行った」と説明しています。台湾当局の説明をそのまま述べたと思われますが、規制の背景を知る人間であれば、それが本当の理由とは思わないでしょう。
実は、先にシラスウナギの輸出を規制したのは日本なのです。日本は、2007年5月に国内からシラスウナギを輸出することを制限しました(経済産業省「ウナギ稚魚の輸出について」)(修正:実際には、以前より輸出の制限は存在していました。台湾から制限撤廃の働きかけがあったにも関わらず、日本は2007年5月に改めて輸出を制限した、というのが実情です。事実誤認があったので、修正します。2016年12月9日)。そのわずか5ヶ月後に、台湾が同じくシラスウナギの輸出を制限したのです。ウナギ養殖の業界紙「日本養殖新聞」が輸出制限直後に掲載したブログ記事に掲載された台湾関係者の発言を読むと、当時の背景が見えて来きます。

『再三にわたる問いかけにも日本の養鰻業界からは協力が得られなかった。大手の単年養殖業者から“なんとかしてほしい”といわれてきたが、業界のトップ及び行政の方が動いてくれないのでしかたない。来年の6月から7月にかけての新仔の供給に異変が起きることは間違いないだろう。いかに台湾のシラスが貴重であるか、その段階で理解されるだろうし、本当に困ると思う』
*筆者注:「単年養殖」とは、冬に捕れたシラスウナギをその年中に飼育して出荷する方式のこと。丑の日に間に合わせるには、なるべく早い時期にシラスウナギを入手する必要がある。

当時、台湾で早い時期に漁獲されるシラスウナギが日本へ輸出され、日本で遅い時期に漁獲されたシラスウナギは台湾へと輸出されていました。この関係を断ち切ったのが、日本が先行した輸出制限です(修正:正しくは、台湾の求めに応じないで日本が輸出制限を緩和しなかった、という状況のようです。2016年12月9日)。上記「台湾関係者の発言」からは、台湾によるシラスウナギの輸出制限が、日本の輸出制限に対する報復措置であった可能性を、強く示唆しています。

 無意味な規制と不必要な違法行為
その意図が報復措置であったとしても、輸出制限が結果として資源保護や経済性の向上に寄与していれば、意味のあることなのかもしれません。しかし、資源保護について考えたとき、輸出制限によって消費量が削減されているという証拠はありません。池入れ量制限といったその他の資源管理措置とも連動していないと見られ、資源保護に寄与しているとは考えられません。経済性について、全体的な経済性は規制があれば損なわれますので、問題は地域経済に貢献しているか、ということになるでしょう。クローズアップ現代+の報道では、輸出制限によって密輸が横行するようになった後、養殖業者は仕入れに多額の資金を投入せざるを得なくなり、品質の落ちるウナギが出回るようになったとも伝えています。密輸はリスクを伴うため、通常、売買される品物の値段は適法に流通するものよりも高くなります。少なくとも日本のウナギ業界や流通業界、消費者は、日台の輸出規制によって迷惑を被っているように見えます。
資源保護にも地域経済の活性化にも結びつかない日台間の輸出制限は、存在する意味を持たない規制のようです。しかもその「無意味な規制」は、「密輸」という違法行為を生み出しています。闇流通はデータ管理を困難にし、資源管理にも悪影響をおよぼします。さらに、シラスウナギの価格高騰と結びつき、ウナギ業界にとっても、消費者にとっても迷惑です。無意味な規制によって、大きな社会的な損失が生じているのではないでしょうか。
このように、「密輸」の背景を見てみると、修正すべきは日台間の輸出制限であり、土用の丑の日ではないことが分かります。もちろん、ウナギの消費のあり方は、考え直す必要があります。しかし、密輸の対策として丑の日の消費のあり方を持ち出すことは、問題の核心を見誤らせます。日台間の密輸問題に関しては、トレーサビリティを担保するシステムを確立するとともに、互いの輸出制限を撤廃することで解決できます。違法行為もない、ウナギの値段も下がる、資源も管理しやすくなると、全てが丸く収まる方法です。それがうまく進まないのは、現在のシステムで少なくない利益を得られる人たちがいて、それらの人たちが改革に反対するためなのかも知れません。

国内の違法行為についても議論を
「密輸」という言葉が持つ闇の響きには、人間の心を惹き付けるものがあるようで、今回の番組だけでなく、雑誌でも大きく取り上げられています。しかし、2015年漁期に日本の養殖場に池入れされたシラスウナギ18.3トンのうち、輸入されたものは16.3%(3トン)に過ぎません。残りの83.7%(15.3トン)は国内で漁獲されたシラスウナギであり、そのうち52.5%(9.6トン)は密漁や無報告など違法な漁獲です。密輸も問題ですが、国内の違法な漁獲や流通が野放しになっている状況についても、現状を的確に把握し、問題の解決に向けた議論を進める必要があります。

2016年12月5日
中央大学法学部 海部健三

台湾で過去最高のシラスウナギ密輸摘発 台湾(日刊 世界のウナギニュース2016年11月28日)

★台湾で過去最高のシラスウナギ密輸
26日、台湾の桃園国際空港で香港行きの飛行機に搭乗中の8人の荷物から、シラスウナギ32万匹、600万円相当が押収された。押収量としては台湾で過去最大。シラスウナギは資源保護のため台湾からは輸出禁止になっている。
“台湾でウナギの稚魚大量密輸か 税関が調査” (日本、NHK)
 
★オオウナギの画像でネット炎上 中国
中国版Twitter、微博に先週初めに投稿された画像が炎上している。画像は中国南東部の広西チワン自治区南寧市の灵婉湖で捕獲された1mほどのオオウナギ。中国では絶滅危惧種に指定されているが、画像では頭に金属棒が貫通しており、残忍だとして問題となっている。このウナギは少なくとも同湖に7年は生息していたと推定され、ダイバー達の人気を集めていた。地元の漁業当局では調査を開始し、多くの人が情報提供を呼び掛けている。
“Killing of ‘king of fish’ in Guangxi sparks public outrage” (ECNS.cn 、中国)
年度末に向けて山積みの業務に対応するため、「日刊 世界のウナギニュース」はしばらく休載します。再開に向けて準備致しますので、今しばらくお待ちください。

ウナギ研究クラウドファンディング、成功なるか ベルギー(日刊 世界のウナギニュース2016年11月16日)

★ウナギ研究クラウドファンディング、成功なるか
ベルギーの研究者らにより、アルミニウムがヨーロッパウナギに及ぼす影響を調査するための費用がクラウドファンディングにより募られている。目標額は3万£(約400万円)で16日時点では423£集まっている。締め切りは51日後。アルミニウムは魚類の鰓に結合し、浸透圧の調整機能に影響を及ぼすとされる。本来であれば土中でキレート化されるため河川や湖には存在しないが、酸性雨が降り始めた何十年か前から土が酸性化した事で流出するようになった。研究者らはオランダで採集された耳石を用いてその相関性を調べるとしている。
“Quand le crowdfunding part la la rescousse des anguilles en voie de disparition” (rtbf, BE)
https://www.rtbf.be/info/economie/detail_quand-le-crowdfunding-part-la-la-rescousse-des-anguilles-en-voie-de-disparition?id=9455677
クラウドファンディングのサイト:https://www.futsci.com/project/eel

★遠州灘に銀ウナギ366匹放流
15日、浜名湖の下りウナギの買取放流事業「浜名湖発親うなぎ放流事業」が行われ、浜名湖から200mほど離れた水深約10m、水温約20℃の場所に下りウナギ366匹、173.8kg分が放流された。この事業は今年で4回目で浜松市、湖西市、養鰻業者、うなぎ料理店ら等で行われている。今年12月までに計300kg、700匹を目標にあと2回放流される予定。
“親ウナギ 遠州灘に放流” (中日新聞、日本)
http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/20161116/CK2016111602000040.html

★『ウナギと人間』の筆者、自らとその著作を語る
日本では今年出版された『ウナギと人間(原題:Eels:An Exploration, from New Zealand to the Sargasso, of the World’s Most Mysterious Fish)』(築地書館)の筆者、James Prosek氏が自身の経歴や著作について語った。同氏は9歳の時に魚に惹かれ、大学1年生の時にはアメリカ国内の様々な地域の野生生物当局に手紙を書きどのようなマスがその地域に生息しているかを調査、書籍を出版した。その後ニュージーランド、日本、ヨーロッパを12年間旅し、2010年には『ウナギと人間』(の原著)を発行。ウナギの謎に満ちた生態、ニュージーランドのマオリとの出会いから得た教訓を書いた。現在は12歳の時から取り組んでいる、人間がどのように自然を名づけ整理するかに関する書籍を執筆中。
“Self-Taught Easton Artist James Prosek Draws On His Passion For Fish” (Trumbull-Monroe, US)
http://trumbull.dailyvoice.com/neighbors/self-taught-easton-artist-james-prosek-draws-on-his-passion-for-fish/689416/