2015年8月7-8日に上海で開催された,東アジア鰻資源協議会(EASEC)の2015年会合に参加してきました。以下,簡単にレポートします。
東アジア鰻資源協議会(East Asia Eel Resource Consortium, EASEC)は,1998年に日中台韓の鰻業界(養殖業,餌料生産業,中間流通業,蒲焼業)と研究者らによって立ち上げられた,研究者と業界の情報交換会です。
近年の資源の減少にともない,東アジアの研究者間での情報共有を進める機能が強くなってきています。昨年からは,フィリピンやインドネシアも参加するようになっています。
会場である上海パラダイスホテルの前で集合写真。
開会式直後に集合写真撮影。中国側の偉い方々はその後いなくなります。しかし,写真のためだけでもこの場に重要人物が来るということは,それだけ重要視されている,と見ることも可能かも知れないですね。
2015年の東アジア鰻資源協議会は,中国水産科学研究院東海水産研究所がホストとなって行われました。今回の参加国はホストの中国のほか,台湾,フィリピン,日本の4カ国。全体の概観から言えば,非常に上手く運営されていました。以下,会合の中で出てきた議論をいくらか紹介します。
■2015年東アジア鰻資源協議会での議論
<中国>
資源の保全と持続的利用を強く意識した発表が多く,驚かされました。最も面白かったのは,黄河河口域におけるシラスウナギ漁の混獲(目的外の生物の漁獲)を4年にわたって調べた研究です。シラスウナギ漁獲用の定置網に大量のエツが混獲され,死亡しているということです。エツのような経済価値のある水産物だけでなく,様々な生物の混獲に目を向ける姿勢,混獲防止のためにエコ・フレンドリーネットの開発を行おうとする姿勢など,資源や環境に対して真摯に考える姿勢を感じさせる内容でした。
この他,シラスウナギの漁期規制や量的規制など,日本と同じ程度の漁業管理が行われているように見受けられました。しかし今回は,具体的な内容や運用上の問題点について踏み込んだ話しは聞けなかったので,今後確かめていく必要があります。
<台湾>
国立台湾大学の韓玉山副教授は,日中台韓によるシラスウナギの池入れ量制限について,現状の上限は多すぎることを指摘し,近年の平均値40トンを用いるべきだろうと述べました。また,台湾では全ての州にひとつ以上のウナギ保護河川が設定され,ウナギの漁獲が禁止されていることを紹介し,日本や中国などニホンウナギの分布域である他国でも,産卵に寄与する可能性の高い,大きく育った天然ウナギ(特に銀ウナギ)の保護を推進すべきであると主張しました。さらに,台湾で推進されつつある生息域改善の努力を紹介してくれました。
ニホンウナギの河川生活期の研究では第一人者とも言える韓さんのお話は,いずれも科学的データに基づいて保全と持続的利用の議論を進めることを重要視しており,現在の日本の議論にも欠けている部分を厳しく指摘してもらったと感じました。また,韓国の河川で進められている自然再生では,人工のウェットランド(湿地)を河川周辺に配置したり,河川横断構造物を底生生物にも登りやすい形状に直したりと,先進的な工夫がなされており,日本が見習う部分も多いようです。
<韓国>
今回残念ながら,韓国からは参加者がありませんでした。
<フィリピン>
フィリピンにはニホンウナギはほとんど生息していませんが,オオウナギやビカーラ種などの熱帯種が多く存在します。ニホンウナギやヨーロッパウナギの減少に伴い,東アジアの需要はこれら熱帯種にも大きな影響を与えています。フィリピン政府は,2012年よりシラスウナギを含む15cm未満のウナギ全種の輸出を禁じました。フィリピンは中央ルゾン大学のYambot教授によると,シラスウナギの値段が余りにも高騰したため,あらゆる人間がシラスウナギの捕獲に熱中し,子どもまでもが学校に通わずにシラスウナギ捕獲に動員されるようになったそうです。このような社会的混乱を避けるために,政府はシラスウナギの禁輸に踏み切ったと言うことですが,国内のウナギ養殖業を奨励していることからも,あわせて国内産業の発展を狙った措置であることは明らかでしょう。ただし,どうせ消費されるのであれば,国内経済を潤う形の方が望ましいと考え,私はフィリピン政府の決断を指示します。
<日本>
日本からは日本養鰻漁業協同組合連合会の白石会長,東京医科大の篠田博士と,私が発表しました。白石会長からは,日中台韓の池入れ制限が初めてなされた今シーズン,結局実際の池入れ量(18.3トン)は上限の21.6トンに届かなかったことが報告されました。篠田博士からは日本で行われているシラスウナギモニタリング「鰻川計画」の紹介,私は資源量を明らかにするための研究の重要性と,そのために東アジア諸国で情報を共有する必要があることを説明しました。
その後中国,台湾の参加者と話し合い,韓国も含めた四カ国でニホンウナギの資源解析を進めることで合意しました。明日からでも詳細な計画を立てるための準備を始めます。
<その他>
総合討論では,放流の効果や戦略が話題になりました。しかし日本と同様,参加国のいずれも放流による資源増殖効果の検証は進んでいません。放流を漫然と続けるのではなく,資源を回復させる戦略の一部として考えていく必要があるでしょう。
CITESに関しても様々な話題が出ましたが,会長の曾萬年教授からは,CITESで国際取引が禁止されれば,地域の産業にとって喜ばしいのではないかという話しも出ました。確かに,例えば相対的に購買力の低い台湾の養殖業者から見た場合,シラスウナギの輸出が止まれば(現在も禁輸ですが,実際には大量に輸出されている),日本の養殖業者との競争がなくなり,これまでよりも安くシラスウナギを入手できるようになるでしょう。多様な立場の視点を忘れてはならないと思わせる一幕でした。
フィリピンは調査費用の不足が深刻なようで,援助を求めていました。一次産品の国際取引に関して,多くの場合経済的に優位にある輸入国や仲介企業が,当該産品の資源管理に一定の責任を持つ制度の構築が必要だと感じさせられました。
今回の東アジア鰻資源協議会,けして東アジアの専門家が一致団結して保全と持続的利用に向かって邁進しているというわけでもありませんが,数年前に比べると圧倒的に保全と持続的利用に意識が向いており,隔世の感がします。この動きを止まらせることなく,より強く進めることが重要だと感じました。