イオンのウナギ取り扱い方針について

イオンのウナギ取り扱い方針について

中央大学 海部健三
国際自然保護連合(IUCN) 種の保存委員会ウナギ属魚類専門家グループ

2018年6月18日、イオン株式会社がウナギの取り扱い方針を発表しました。この方針には、二つのの画期的な要素があります。一つは、ニホンウナギのトレーサビリティの重要性について、大手小売業が初めて公に言及したこと、もう一つは、世界に先駆けてウナギの持続的利用のモデルを開発しようとすることです。

イオンのウナギ取り扱い方針http://www.aeon.info/news/2018_1/pdf/180618R_1.pdf

これまでの状況
「ウナギの資源回復」をうたい自ら取り組みを行うか、または取り組みに対して資金を提供している小売業者や生活協同組合は複数あります。それらの業者が関与する取り組は通常、石倉カゴなどの成育場回復、放流、完全養殖への資金提供であり、業者が利益を上げている流通や消費そのものを対象としているものは、私の知る限りごく最近まで存在しませんでした(石倉カゴ放流完全養殖に関する課題については、それぞれ過去の記事を参照のこと)。ウナギの消費に関わる小売業者や生協であれば、環境問題や放流ではなく、ウナギの消費そのものに関わる問題と向き合うべきです。「ウナギの消費そのものに関わる問題」のうち、最重要の課題はシラスウナギのトレーサビリティと、資源管理です。

国内で養殖されているニホンウナギの半分程度に、密漁や密売などの違法行為が関わっています(詳しくは過去の記事を参照)。グリーンピースの行ったアンケートが明らかにしたように、小売業者や生協はこの問題を認識しながらもニホンウナギを販売しています。違法行為が関わっていることを知りながらも商品を販売する行為は、消費者に対する背信です。さらに、違法行為の問題には触れずに環境回復や放流の取り組みを行って、それを「ウナギ資源の回復に対する貢献」としてアピールしている場合があるとすれば、そのような行為は「グリーンウォッシュ」として非難されるべきでしょう。なお、「グリーンウォッシュ」とは、企業の経済活動全体としては環境に負荷を与えているにも関わらず、一部の取り組みを取り上げて、あたかも環境を保全しているかのように見せる、詐欺的な行為です。

資源管理について、現在日本、中国、韓国、台湾が設定しているニホンウナギの消費上限量は過剰であり、早急に適切な上限へと移行させる必要があります(詳細は過去の記事を参照)。これは、国がリーダーシップをとって進めるべきことですので、単一の企業や組織が対応するには限界があります。しかし、その問題を指摘し、改善を求めることは、ウナギを扱う小売業者や生協の責任でもあるのではないでしょうか。

トレーサビリティへのコミットメント
イオンの取り扱い方針では、『2023年までに100%トレースできるウナギの販売を目指します』としています。ニホンウナギについては、どのように『100%とレースできるウナギ』を確保するのか、また、トレース可能であることをどのように検証するのか、超えなければならないハードルは高く、数も多い状況です。しかし、期限を切ってトレーサビリティを確立するとのコミットメントを発表した小売業者または生協は、私の知る限りこれまで存在しませんでした。大手小売業者からこのような宣言がなされたことにより、違法行為の横行しているニホンウナギの業界が、変革されていくことが期待されます。

ウナギ持続的利用のモデル
取り扱い方針ではこの他に、『「インドネシアウナギ」の持続可能性を担保するため「インドネシアウナギ保全プロジェクト」を推進します』としています。具体的な中身について、取り扱い方針ではビカーラ種(取り扱い方針では「インドネシアウナギ」と表記)を対象として、『ウナギでは世界初となるFIP(漁業改善プロジェクト)をインドネシアで本格的に開始し、シラスウナギ採捕の「MSC認証」取得を目指します』としています。MSC(海洋管理協議会)は、国際的に認められている持続可能な漁業に対する認証制度(エコラベル)です。MSC認証を取得すれば、国際的な信用を得ている第三者機関によって、持続可能な資源管理が行われていることが担保されることになります。

これまで、岡山県のエーゼロ株式会社が類似の認証制度であるASC(水産養殖管理協議会)の予備審査を受けた事例がありますが(過去の記事)、本格的にMSCを目指してFIPを開始することになれば、世界でも初めての事例となるでしょう。持続可能であることが第三者機関によって証明されたウナギの養殖は、世界に一つも存在しません。現在、ニホンウナギだけでなく、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギも減少し、IUCN(国際自然保護連合)によって絶滅危惧種に指定されています。イオンの取り組みは、持続可能なウナギ養殖のモデルを世界に先駆けて示すことにより、ウナギの持続的利用を世界に広げるきっかけとなることが期待されます。この取り組みが成功したのちには、同様の手法を日本にも取り入れ、ニホンウナギの持続的利用を促進することも、可能になるでしょう。

ビカーラ種はその広大な分布域に対して、消費量は現在のところ限定的と考えられます。このため、持続的に利用できる可能性があります。しかし、現在その資源を管理できるルールは定められていないため、ビカーラ種に対する需要が拡大することで、ニホンウナギと同じように資源が減少する危険性があります。世界のウナギを消費してきた日本は、ウナギの持続的利用に関して、大きな責任を負っています。この取り組みは、この責任の一端を果たす、非常に重要なものです。このような重要な責任は、単一の企業のみが負うべきものではありません。行政やウナギに関する業界だけでなく、消費者の方々に応援していただくことによって、日本全体でウナギに対する責任を果たしていくことが望まれます。

消費者にできること
ウナギ消費の問題に正面から取り組もうとする、イオンやエーゼロのような企業を、消費者は購買行動によって応援することができます。重要な問題から目を背け、グリーンウォッシュを続ける企業ではなく、より適切な取り組みを行う企業の商品を選択することによって、消費者がウナギの持続的利用を促進できるのです。鰻の持続的利用に興味のある方がウナギを消費するときには、それぞれの小売業者や生協がどのような取り組みを行なっているのか調べた上で、最も適切と思われる取り組みを進めているところの商品を選択するようにしましょう。

当研究室の立場について
「インドネシアウナギ保全プロジェクト」には、中央大学ウナギ保全研究ユニットも参画しています。ただし、イオンを含むこのプロジェクトに参画する企業から、研究費や謝金を含む金銭的な援助は一切受けていません。現在は、中央大学の「共同研究プロジェクト」という仕組みの中で、学内の研究予算を充当しています。今後も、大学や研究費の助成を行なう財団などから資金を調達し、プロジェクトに参画し続ける予定です。

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