ウナギの保全と持続的利用に関わる重要事項」カテゴリーアーカイブ

英国テムズ川における市民協働型ウナギ・モニタリング

2017年6月に開催された国際ウナギシンポジウムにあわせて、英国の河川におけるウナギ保全の取り組みを見学させてもらいました。うち、一部を順次ご紹介します。

市民協働のテムズ川ウナギモニタリング
ロンドン動物学会、英国環境庁などが主導し、市民と協働してのウナギをモニタリングするプログラムが発達しています。この市民協働型のウナギモニタリングシステムを、ロンドン動物学会の協力を得て、日本にも導入する予定です。近日中にお知らせできるかと思います。

2017年6月、ロンドン市街を流れるテムズ川で、水門に設置されたウナギ魚道における市民科学によるウナギ遡上量のモニタリングを見学しました。モニタリングは、ロンドン動物学会と英国環境庁が、120名ほどの地域住民とともに行なっているということです。

テムズ川の水門。階段状の構造は、水流を緩やかにするためであり、生物の移動を目的としたものではありません。

テムズ川の水門。階段状の構造は、水流を緩やかにするためであり、生物の移動を目的としたものではありません。

水門には、ウナギの遡上を助けるウナギ用魚道が設置されています。ウナギ魚道の目的は遡上の促進とモニタリング。トラップを用いてウナギの遡上数をモニタリングできますが、トラップを外すとウナギは自由に遡上できます。

テムズ川ウナギ計画で使用されているウナギ魚道。途中の箱がトラップ。

テムズ川ウナギ計画で使用されているウナギ魚道。途中の箱がトラップ。

魚道の途中に仕掛けられたトラップ。ここでウナギを捕獲するが、トラップを外すとただの魚道にな理、ウナギは自由に上流へと遡上できる。

魚道の途中に仕掛けられたトラップ。ここでウナギを捕獲するが、トラップを外すとウナギは自由に上流へと遡上できる。

モニタリングでは、トラップで捕獲されたウナギの個体数を計数し、全長を計測します。重量は計測しません。全長計測はビニール袋の中で行い、麻酔はしません。計数、計測後に上流側へ放流します。

捕獲されたウナギ

捕獲されたヨーロッパウナギ

市民協働のウナギ・モニタリング工程表

市民協働のウナギ・モニタリング工程表

捕獲したウナギの全長を計測

捕獲したウナギの全長を計測

計数、計測後は上流側へ放流して終了

計数、計測後は上流側へ放流して終了

資料
ロンドン動物学会テムズ川ウナギプロジェクトの紹介ページ
テムズ・ウォーター社
Hydrolox社

シラスウナギ密輸の裏にあるのは「無意味な規制」 −NHKクローズアップ現在+を見て−

2016年12月1日、NHKのクローズアップ現代+で「”白いダイヤ”ウナギ密輸ルートを追え!」が放映されました。番組では、養殖に用いるシラスウナギが、輸出を制限している台湾から香港を経由して日本へと輸出されている状況を指摘しています。シラスウナギ密輸が横行している理由としては、日本における土用の丑の日の集中的な消費との関連が、番組内で強く示唆されました。しかし、実際は輸出制限の存在自体に問題があり、さっさと撤廃してしまうのが最善の選択のようです。

香港「密輸」ルート
番組で紹介されている通り、毎年日本には香港から大量のシラスウナギ(子どものウナギ)が養殖のために輸入されます。香港ではシラスウナギの漁獲は行われていないと考えられており、そのほとんど(または全て)は別の国や地域で漁獲されたものが、香港を経由して日本へと輸入されたものであると考えられています。割合を推測することは困難ですが、これらのうち多くは、シラスウナギの輸出を制限している台湾などからの密輸であると考えられています。2015年漁期においては、日本に輸入された3.0トンのシラスウナギのすべてが、香港から輸出されました。なぜ、このような状態が当たり前になってしまったのでしょう。

2015年漁期に日本国内の養殖場に池入れされたシラスウナギの内訳:輸入された3トンは全て香港からの輸入で、密輸が色濃く疑われる。国内漁獲のうち6割を超える9.6トンは密漁や無報告漁獲など、違法な漁獲。

2015年漁期に日本国内の養殖場に池入れされたシラスウナギの内訳:輸入された3トンは全て香港からの輸入で、密輸が色濃く疑われる。国内漁獲のうち6割を超える9.6トンは密漁や無報告漁獲など、違法な漁獲。

 

「土用の丑の日」が問題なのか
NHKでは、土用の丑の日のある7月にウナギの国内消費が突出して多い事を示したうえで、「丑の日に間に合わせる形での養殖というのが、やっぱり日本では盛んなんですけれども、今、盛んなのは、特に半年で育てる方法です。その場合、7月の出荷に間に合わせるためには、半年前ですから、この1月上旬には遅くとも入れなくちゃいけない。」「少しでも早くということで、香港から仕入れて半年で間に合わせるサイクルが出来上がってしまっているという構図なんですね」と、香港を経由したシラスウナギの密輸が、来遊時期の早い台湾のシラスを欲する日本の養殖と消費のあり方にあると説明します。
しかし、これまでの経緯を考えると、この理屈では説明しきれない部分があります。実は、2007年までは、台湾のシラスウナギが香港経由で密輸されるという問題は無かったのです。土用の丑の日におけるウナギの大量消費は、2007年から始まったわけではありません。国内におけるウナギの消費量が現在の倍以上だった1990年代には、すでに丑の日周辺の大量消費が常態化していました。それでは、なぜ近年になってから、密輸が問題になったのでしょうか。

日本へ輸入されたシラスウナギの輸出国:2007年に日台両国がシラスウナギの輸出を制限した。その後台湾からの輸入が激減し、香港からの輸入が増大した。なお、2007年以前にも香港からはシラスウナギが日本に輸出されており、過去には、必ずしも「香港ルート=密輸」ではなかったことが伺える。NHKクローズアップ現代やその他のマスコミでも、このグラフを取り上げるときのタイムフレームは2001年以降。2000年以前に香港から輸入されている状況を見せないようにしている。マスコミによる情報の選択として、問題を感じることの一つ。

日本へ輸入されたシラスウナギの輸出国:2007年に日台両国がシラスウナギの輸出を制限した。その後台湾からの輸入が激減し、香港からの輸入が増大した。なお、2007年以前にも香港からはシラスウナギが日本に輸出されており、過去には、必ずしも「香港ルート=密輸」ではなかったことが伺える。NHKクローズアップ現代やその他のマスコミでも、このグラフを取り上げるときのタイムフレームは2001年以降。2000年以前に香港から輸入されている状況を見せないようにしている。マスコミによる情報の選択として、問題を感じることの一つ。

 

先に規制したのは日本
そもそも、2007年までは台湾と日本は普通にシラスウナギのやり取りをしていました。台湾と日本のシラスウナギ取引は、違法ではなかったのです。しかし、2007年の10月に台湾がシラスウナギの輸出を制限して以来、香港を経由した密輸が横行するようになりました。台湾がシラスウナギの輸出を制限するようになった理由について、NHKの番組では「資源保護のために行った」と説明しています。台湾当局の説明をそのまま述べたと思われますが、規制の背景を知る人間であれば、それが本当の理由とは思わないでしょう。
実は、先にシラスウナギの輸出を規制したのは日本なのです。日本は、2007年5月に国内からシラスウナギを輸出することを制限しました(経済産業省「ウナギ稚魚の輸出について」)(修正:実際には、以前より輸出の制限は存在していました。台湾から制限撤廃の働きかけがあったにも関わらず、日本は2007年5月に改めて輸出を制限した、というのが実情です。事実誤認があったので、修正します。2016年12月9日)。そのわずか5ヶ月後に、台湾が同じくシラスウナギの輸出を制限したのです。ウナギ養殖の業界紙「日本養殖新聞」が輸出制限直後に掲載したブログ記事に掲載された台湾関係者の発言を読むと、当時の背景が見えて来きます。

『再三にわたる問いかけにも日本の養鰻業界からは協力が得られなかった。大手の単年養殖業者から“なんとかしてほしい”といわれてきたが、業界のトップ及び行政の方が動いてくれないのでしかたない。来年の6月から7月にかけての新仔の供給に異変が起きることは間違いないだろう。いかに台湾のシラスが貴重であるか、その段階で理解されるだろうし、本当に困ると思う』
*筆者注:「単年養殖」とは、冬に捕れたシラスウナギをその年中に飼育して出荷する方式のこと。丑の日に間に合わせるには、なるべく早い時期にシラスウナギを入手する必要がある。

当時、台湾で早い時期に漁獲されるシラスウナギが日本へ輸出され、日本で遅い時期に漁獲されたシラスウナギは台湾へと輸出されていました。この関係を断ち切ったのが、日本が先行した輸出制限です(修正:正しくは、台湾の求めに応じないで日本が輸出制限を緩和しなかった、という状況のようです。2016年12月9日)。上記「台湾関係者の発言」からは、台湾によるシラスウナギの輸出制限が、日本の輸出制限に対する報復措置であった可能性を、強く示唆しています。

 無意味な規制と不必要な違法行為
その意図が報復措置であったとしても、輸出制限が結果として資源保護や経済性の向上に寄与していれば、意味のあることなのかもしれません。しかし、資源保護について考えたとき、輸出制限によって消費量が削減されているという証拠はありません。池入れ量制限といったその他の資源管理措置とも連動していないと見られ、資源保護に寄与しているとは考えられません。経済性について、全体的な経済性は規制があれば損なわれますので、問題は地域経済に貢献しているか、ということになるでしょう。クローズアップ現代+の報道では、輸出制限によって密輸が横行するようになった後、養殖業者は仕入れに多額の資金を投入せざるを得なくなり、品質の落ちるウナギが出回るようになったとも伝えています。密輸はリスクを伴うため、通常、売買される品物の値段は適法に流通するものよりも高くなります。少なくとも日本のウナギ業界や流通業界、消費者は、日台の輸出規制によって迷惑を被っているように見えます。
資源保護にも地域経済の活性化にも結びつかない日台間の輸出制限は、存在する意味を持たない規制のようです。しかもその「無意味な規制」は、「密輸」という違法行為を生み出しています。闇流通はデータ管理を困難にし、資源管理にも悪影響をおよぼします。さらに、シラスウナギの価格高騰と結びつき、ウナギ業界にとっても、消費者にとっても迷惑です。無意味な規制によって、大きな社会的な損失が生じているのではないでしょうか。
このように、「密輸」の背景を見てみると、修正すべきは日台間の輸出制限であり、土用の丑の日ではないことが分かります。もちろん、ウナギの消費のあり方は、考え直す必要があります。しかし、密輸の対策として丑の日の消費のあり方を持ち出すことは、問題の核心を見誤らせます。日台間の密輸問題に関しては、トレーサビリティを担保するシステムを確立するとともに、互いの輸出制限を撤廃することで解決できます。違法行為もない、ウナギの値段も下がる、資源も管理しやすくなると、全てが丸く収まる方法です。それがうまく進まないのは、現在のシステムで少なくない利益を得られる人たちがいて、それらの人たちが改革に反対するためなのかも知れません。

国内の違法行為についても議論を
「密輸」という言葉が持つ闇の響きには、人間の心を惹き付けるものがあるようで、今回の番組だけでなく、雑誌でも大きく取り上げられています。しかし、2015年漁期に日本の養殖場に池入れされたシラスウナギ18.3トンのうち、輸入されたものは16.3%(3トン)に過ぎません。残りの83.7%(15.3トン)は国内で漁獲されたシラスウナギであり、そのうち52.5%(9.6トン)は密漁や無報告など違法な漁獲です。密輸も問題ですが、国内の違法な漁獲や流通が野放しになっている状況についても、現状を的確に把握し、問題の解決に向けた議論を進める必要があります。

2016年12月5日
中央大学法学部 海部健三

リソースとエフォート:ウナギ漁業管理をめぐる行政と研究者の「論争」から考えたこと

2016年11月8日付けの水産系業界紙みなと新聞に「ウナギ闇取引是正で論争」と題した記事が掲載され、水産庁の「闇取引があっても、現行の池入れ数量制限で管理可能」とする見解と、専門家の「ウナギの獲れた場所や量が分からなくなり、資源の分析や管理に支障となる」との見解が対立していると報じられています。ウナギ減少の問題を解決しようとしたとき、重要なプレイヤーとなる行政と専門家の間に無用な(または過剰な)対立があるとすれば大きな問題です。この「論争」については、なあなあにことを納めるという意味ではなく、早急に適切な対応をする必要があるでしょう。そこで今回の「対立」について、行政と専門家の間にはどの程度の意見の対立があり、その対立の背景にはどのような原因があり、どのように解決すべきなのか、考えてみました。

水産庁と専門家の「対立」
ことの発端を探るとながく時代をさかのぼることになりますが、直近の「論争」の発端として考えられるのは、10月12日に開催された自民党水産部会における水産庁担当者の発言です。10月17日付けのみなと新聞によれば、シラスウナギの国内漁獲のうち、半分以上が適切に報告されていない(密漁や密売が横行している)現状について、議員や関係者から質問や意見が述べられたのに対し、水産庁担当者は「闇流通はシラス高騰につながるものの、資源管理とは別問題。闇流通のシラスも、最終的には養殖池に入る」と発言した、とされています。
これに対し、10月29・30日に開催された「うなぎ未来会議2016」の専門家によるニホンウナギの絶滅リスク評価会議の中で、この発言を前提に、シラスウナギの密漁や密売がうなぎ資源管理に与える悪影響について議論がなされました。「うなぎ未来会議2016」で専門家より提示された意見は(1)密漁・密売によって漁獲量や漁獲努力量が不明確になり、資源量解析の妨げとなる、(2)違法行為が取り締まれない状況では、適切な漁業管理は望めない、(3)違法行為が野放しの状態では、(業界も含め)ウナギに対する社会的な支援を失う、の3点でした。私自身は、この三つの意見すべてに賛成します。つまり、水産庁とは「対立」する見解です。

どこまで「対立」しているのか
実際に水産庁担当課の方々の意見を聞いてみると、「密漁・密売など、適切に報告されていない漁獲が半分程度を締めている現状を、このままで良いとは思っていない」ということです。つまり、水産庁にも違法なシラスウナギの漁獲や売買を根絶する(少なくとも減少させる)意思は明確に存在します。また、シラスウナギの密漁や密売がウナギの資源管理に悪影響を与える、ということも認識されているようですので、水産庁と専門家の間には、実際には、根本的な意見の隔たりがあるわけではないように見えます。多分に私見が入りますが、この意見の「対立」は、現行制度の是正に比較的積極的な専門家と、比較的消極的な行政(水産庁)の温度差のずれが表面化したものではないでしょうか。そうだとすれば、その温度差はなぜ生じるのか、考えてみました。

「対立」の背景にあるもの
なぜ専門家と行政に温度差が生じるのか。その理由は、それぞれの仕事の進め方の違いにあるのではないかと考えています。専門家、特に大学教員はリソース(資源)が準備されてから、初めてエフォート(努力量)を割きます。ここでいうリソースとは、予算、人員、組織、規則、協力者など、仕事を進めるために必要なあらゆる資源を想定しています。
専門家の例として大学教員を想定すると、大学教員はリソースがなければエフォートを割きません。大学教員はある程度自律的に研究テーマを設定できるため、新しい研究テーマの着想を得たら、助成金を得るなどリソースの準備をしてから、実際の研究に取りかかります。そして、予算が得られない研究テーマについては、研究を行わないのです(予算がない研究テーマであっても、無理して多少進めることはあります)。その一方で、行政の場合は新しい行政ニーズに対応する必要が生じたとしても、これまで行ってきた仕事を捨てるわけにはいかないでしょう。予算や人材といったリソースが限定されている中でも、新しいエフォートを受け入れざるを得ない場合があるのではないでしょうか。
このような専門家と行政の立場の違いを考えてみると、新しい仕事を始めることに対する姿勢、または言明は、自ずと異なってくるはずです。大学教員などの専門家は新たな問題に積極的に関わるべきであると叫び、しかしリソースが得られなければ何もしないという判断が可能です。専門家社会では、「予算が得られなかった」は研究を行わない理由として十分に通用します(なお、私は、このことをおかしいとは思っていません)。これに対して、行政はやると言ったらやらざるを得ませんので、リソースを含む現在の状況をみながら、慎重にならざるを得ません。極端な場合、解決可能な状況になるまで「この問題に取組む」と宣言することはないかも知れません。そのような場合、専門家と行政が最終的には同じ方向を向いているとしても、それぞれの立場の相違により、発言の中身は大きく異なっているように見えるでしょう。

政治が果たす役割、市民が果たす役割
このような状況では、ウナギに関する諸問題を解決することは難しいでしょう。行政がウナギの問題に正面から取組むためには、予算や人員といったリソースの提供が欠かせません。リソースを提供できるのは、政治の力です。つまり、ウナギ問題の解決には政治の力が欠かせないのです。提供すべきリソースとしては、予算や人員だけでなく、立法や組織づくりといったシステム面も含まれます。このところ話題になっているシラスウナギの密漁・密売について考えると、例えば県をまたぐ取引の規制緩和など、水産行政によって改善が可能な部分も存在しますが、単純な所得隠しとしての過小報告や、反射界組織の資金源としての密漁の規制など、水産庁を筆頭とする水産行政が単独で対処することは不可能な問題が多く含まれます。このため省庁間の協力体制、国家行政と地方行政の協力体制を構築することも、政治の力に期待される部分です。同じことは、ウナギの成育場環境の回復についても言えます。河川や沿岸域の管理や環境保全、水産、農業に関わるあらゆる行政単位が協力して初めて、成育場の環境回復は前進するでしょう。
ウナギ減少の問題を解決しようとする中で、政治が果たすべき役割はある程度明確になってきました。それでは、市民が果たす役割はどのようなものでしょうか。市民には、ウナギ減少の問題の優先順位を上げることができます。政治の重要な役割のひとつは、限られたリソースの配分です。ウナギの問題、シラスウナギの密漁や密売の問題も、それが重要な政治課題であると認識されない限り、政治は動かないでしょう。「将来もウナギを食べたい」「密漁や密売されたウナギは食べたくない」「自分の属する社会が持続的であって欲しい」という望みが多くの市民から発せられることで、ウナギの保全と持続的利用、ひいては資源の持続的利用や環境保全という問題の優先順位を、上げていくことができるのではないでしょうか。インターネットで調べてみる、お昼時の話題で話してみるだけでも、問題の解決に近づくような気がしています。市民がウナギの減少を重要な問題として捉えていないとすれば、問題は解決されず、さらに悪化を続けると思われます。まずは、現状を知ることが重要です。

2016年11月14日
中央大学 海部健三

ワシントン条約CoP17にてウナギ調査提案が採択されたことに寄せて

中央大学の海部健三です。2016年9月25日、南アフリカで開催されているCITES(通称ワシントン条約)の第17回締約国会議(CoP17)において、ニホンウナギを含む全ウナギ属魚類の資源管理や流通に関する調査を行うEUの提案が、全会一致で採択されました(NHK「おはよう日本」)。この件について、考えを記します。
なお、EU提案の内容ワシントン条約の意味ニホンウナギの置かれている状況については、過去の記事をご覧下さい。

調査提案の意味
今回、すでに附属書IIに掲載されているヨーロッパウナギをのぞく15種のウナギ属魚類を、附属書に追加する提案はありませんでした。提案され、採決されたのは、あくまで個体群サイズや消費、流通の現状に関する調査です。しかし、調査が提案されたことは、ウナギ属魚類の個体群動態や、消費、流通の状況が現状のままで良いと考えられてはいない、ということを示しています。調査の結果、やはり附属書に掲載し国際取引を規制する必要があると判断された場合は、おそらく2019年に開催される第18回締約国会議(CoP18)において、ウナギ属魚類全種の附属書への掲載が提案されることになるでしょう。(詳しくは過去の記事をご覧下さい)

ニホンウナギの資源管理の現状
ニホンウナギに関しては、個体群動態、消費と流通が調査の対象として考えられます。すでに個体群サイズの縮小が指摘されている本種において、最も大きな問題となるのは、消費に関して適切な資源管理がなされているのか、ということでしょう。現状においては、適切な資源管理がなされているとはいえません。2014年より日本、中国、韓国、台湾の4ヶ国は、養殖に用いるシラスウナギについて、養殖場に導入する量(池入れ量)の制限を開始しました。しかし、池入れ量の上限は科学的根拠に基づいておらず、本種の持続的利用を担保するものではありません。知見の不足によって科学的根拠に基づいた上限を設定できないのであれば、消費を削減する必要があります。現在ニホンウナギが減少しているということは、ニホンウナギの増える速度を消費する速度が上回っているということであり、持続的利用を達成するためには、消費量を削減する必要があるためです。しかし、現在の池入れ量の上限は、実際に捕獲できるシラスウナギの量を上回っており、消費を削減する効果を持ちません。つまるところ、ニホンウナギの資源管理は適切ではないどころか、実質的には、資源管理が行われていないのと同じ状態なのです。

ワシントン条約はベストの選択か?
「ワシントン条約はウナギの持続的利用に取って、ベストの選択ではない」という意見もあるかも知れません。これは、一部正しく、一部誤っています。ニホンウナギがワシントン条約によって規制されることになった場合、実質的には一切の国際的商取引が禁止されることになるでしょう(詳しくはこちらの記事)。このような柔軟性のない枠組みは、個体数の変動が大きいウナギのような動物の保護には向いていません。ある年、何らかの理由で急に個体数が増えたとしても、それを利用することができないためです。このため、ワシントン条約はウナギの持続的利用のためのベストの選択とはいえません。しかし、現状を見てみるとどうでしょうか。上記のように、ニホンウナギについては、実質的には全く資源管理が行われていないのと同じ状況です。科学的知見に基づいた池入れ制限も設定されず、消費の削減もなされていません。この現状を打破し、消費量を削減しようとする動きが、ワシントン条約による規制の動きです。他に方法がない現状では、柔軟性の欠落したワシントン条約でさえも、現実的な選択肢の中ではベストの選択といわざるを得ません。「ワシントン条約はベストではない」という主張は、ワシントン条約に変わる、現実的で、効果的な対案を伴う必要があります。そして、現在の池入れ制限がそのような対案にはなり得ないことは、明らかです。

ワシントン条約 による規制は「日本の食文化」を危機に陥れるのか?
9月26日朝に放送されたNHKの「おはよう日本」では、全国の養殖業者でつくる業界団体「全日本持続的養鰻機構」の村上寅美会長が、「3年後に開かれる次の会議で、ニホンウナギの国際取引の規制が提案される可能性があり、規制されれば、日本のウナギ業界は大打撃を受け、食文化も守れなくなる。イエローカードどころの話ではなく、本気で取り組まなければ大変なことになる」と話しています。ワシントン条約の規制によって、本当に日本の食文化が失われるのでしょうか。実際には、そのようなことはありません。例えば、2016年に日本の養殖場に入れられたシラスウナギの総量は19.7トン、このうち13.6トンが日本国内で漁獲されたシラスウナギで、残る6.1トンが輸入されたものとされています(水産庁「ウナギをめぐる状況と対策について」)。ワシントン条約が規制するのは国際取引のみですので、もし規制の対象になったとしても、今年の池入れ量の約7割は維持できた計算になります。13.6トンのシラスウナギを養殖し、重さが800倍になったとすると、10,880トンになります。現在の流通量である5万トン(2015年)と比較すると少なくなりますが、「文化を維持する」という視点から考えれば、十分な量ではないでしょうか。

ワシントン条約はチャンス
ウナギの減少は、1980年代には明らかであり、1990年代には国による調査も行われてきました。しかし、実質的な効果を持つ対策は行われないまま、現在に至ります。しかしここ数年間、関係各国での話し合いや水産庁、環境省による保全と持続的量を目指した調査など、様々な変化が現れています。これは、ウナギの現状に対する危機感から生まれているものでしょう。ワシントン条約による規制の可能性は、この危機感をさらに強くする効果をもたらしています。危機感が強まることによって、関係者が動き、社会が動き、これまで現実のものとならなかった、本当に効果的な対策を現実のものにできるのではないでしょうか。ワシントン条約を単なる外圧として避けようとせず、チャンスと捉えて正面から向き合うことで、より適切なウナギの資源管理方策を、現実のものにすることが、できるはずです。

2016年9月26日
海部健三

最重要課題はシステムの改革 2016年土用の丑の日に

中央大学の海部健三です。本日、7月30日は2016年の土用の丑の日です。ウナギの減少が問題視されるなか、その対策はなかなか進みません。その理由の一つとして、社会のシステムが抱える問題が放置されていることがあると考えています。

ウナギの減少とナマズの台頭
ニホンウナギは、急激に減少しています。日本の河川や湖沼におけるウナギ(いわゆる天然ウナギ)の漁獲量は、1960年代には3000t前後でしたが、2013年にはわずか135t、2014年には112tにまで減少しました。2013には環境省が、2014年にはIUCN(国際自然保護連合)が、それぞれ絶滅危惧種に指定しています。養殖されている全てのウナギは天然のシラスウナギ(ウナギの子ども)を捕まえ、養殖池で育てたものです。養殖とはいえ、消費されているウナギは、その全てが天然資源なのです。

日本の河川・湖沼におけるウナギ漁獲量の変遷

日本の河川・湖沼におけるウナギ漁獲量の変遷

このような状況の中、今年も土用の丑の日を迎え、ウナギに関する様々な報道が流れています。目立つのは、代用品として注目を集めるナマズです。「ウナギに近い味のナマズ」の養殖法が開発され、大規模小売店にも流通するようになっています。「ウナギ味のナマズ」は、ウナギ資源減少の問題を解決するのでしょうか。

YOMIURI ONLINE 2016年7月30
「ウナギ味のナマズ」土用の丑の日、全国店頭へ」

ナマズと完全養殖技術とウナギ
1990年代、ウナギは日本国内で年間に15万トン以上も消費されていました。現在の消費量は4万トンであり、潜在的な需要は巨大です。「ウナギ味のナマズ」のような新しい養殖技術の開発は、経済の発展という観点からは、非常に価値のあることです。しかし、ウナギの供給量が激減した現状では、代替品の果たす役割は、不足分の補填に過ぎないのではないかと、疑問を感じます。上記YOMIURI ONLINEの記事では、ウナギ養殖業の方が「代わりの魚を探さないと経営が成りたたない」とコメントしています。このコメントは、「入手可能あれば、ウナギを入手する。不足分をナマズで賄う」と読み取れます。おそらく、「ウナギ味のナマズ」に、シラスウナギ漁獲量の削減をもたらす効果は期待できないでしょう。

ウナギの救世主と目されている、人工種苗生産技術(いわゆる完全養殖技術)の開発についても、同じことがいえます(ウナギの人工種苗生産技術は、現在のところ実用化されていません)。以下の日経新聞の記事のように、人工飼育下で孵化・飼育されたシラスウナギを養殖に利用すれば、天然のシラスウナギを採らないですむため、ウナギの資源保護につながるという考え方もあるようです。しかし、ピーク時の3分の1以下の供給量しかない現状では、人工種苗は天然のシラスウナギの不足を補う役割しか果たせないでしょう。

日経新聞 2015年7月22日
「絶滅危惧種 ウナギ資源を守る」

重要なのは社会のシステム
ナマズも人工種苗生産技術も、現状では天然シラスウナギの消費量を削減する効果を持たないと考えられます。それでは、これらの技術開発は、ウナギの減少を止めるために、まったく役立たないのかといえば、そのようなことはありません。重要なことは、技術を開発して後は消費の動向に任せるのではなく、その技術が役立てられる社会のシステムを構築することです。

ウナギの消費に関わる最重要課題は、科学的根拠に基づいた消費の上限を定めることです。「ここまでなら消費しても大丈夫」という量を明確に定め、厳密に守ることです。現在、水産庁は養殖に用いるシラスウナギの量を21.7トンまでと定めていますが、実際にはここまで漁獲することができません。つまり、この規則があってもなくても、シラスウナギが漁獲される量は変わらないのです。科学的な根拠に基づいた上限量の設定こそが、喫緊の課題です。水面下で少しずつ動きはありますが、この動きを加速する必要があります。

明確な上限が設定されれば、養殖のためのシラスウナギを入手できずに経営が行き詰まる業者が出るでしょう。ここで、ナマズや人工種苗が活躍できるはずです。天然シラスウナギ漁獲に対する厳格な上限量の設定でシラスウナギが入手できず、池が遊んでしまうことになりそうなとき、ウナギの人工種苗を用いたり、ナマズを養殖することで、個々の業者は経済的な危機を回避できる可能性があります。

「安いウナギは食べるな」は正しいのか
ナマズや人工種苗の話題から離れますが、近年のウナギの減少とともに、「ウナギはもともと高価な食べ物なのだから、スーパーやコンビニで安いウナギを売るのは良くない」、「安いウナギの大量消費によってウナギ資源が減少したのだから、手間をかけて調理したウナギを、たまに食べるようにするべきだ」との意見を目にすることも多くなりました。これらの意見を表明する方々のお気持ちは十分に理解できます。しかし、「ウナギの減少」という問題の解決を考えたとき、これらの主張はどのような役割を果たせるのでしょうか。

ウナギ、例えばニホンウナギの個体群(水産学的には資源)の回復を考えたとき、現状では消費を削減すべきです。消費の削減は、消費者の意識改革ではなく、システムでなされるべきではないでしょうか。科学的根拠に基づく明確な消費上限量が定められれば、あとは各経営体のやり方に任せることができます。厳格に設定された上限さえ守っていれば、500円でうな丼を販売しても、1万円で高級うな重を販売しても、それはそれぞれの経営体の考え方と努力の結果であり、社会が制限すべきものではありません。

もちろん、「ウナギはきちんと料理して食べるべき」という、個々人の方の考え方を否定はしません。しかし、それはあくまでも個々人の価値観であって、他人に押しつけるものではないと考えています。また、「私は安いウナギを食べない」という意識の表明が、即座に価値観の押しつけとは言えないことも、理解しています。問題は、ウナギ減少という問題をどのように解決するのかという課題に対して、このような主張が適切な問題設定なのか、ということなのです。

消費者の意識の重要性
それでは、社会のシステムが変わるまで消費者は何もできないのでしょうか。そのようなことはないと思います。社会のシステムの改革は、最終的には立法府と行政府が行うことです。しかし、社会には未解決の問題が多数存在するため、立法府と行政府は、これらの問題に対して優先順位をつけて対応します。ウナギ減少に関する問題に対して、社会のシステムの変革(例えば科学的な根拠に基づいた厳密な消費上限を設定すること)が進まないということは、この問題が立法府と行政府にとって、まだ重要性が低いと認識されている、ということではないでしょうか。

このような状況で消費者、言い換えれば市民ができることは、ウナギの問題を社会問題化することです。「将来もウナギを食べたい」「孫やひ孫にもウナギを食べさせたい」「持続的な利用のための新しい対策を打つべきである」という声が高まれば、立法府と行政府は動かざるを得ません。

今年の土用の丑の日の報道を見る限り、まだ、ウナギの問題は社会問題にはなっていない、と感じました。このような状況では、立法府と行政府にとって、ウナギの問題の優先順位は高くないと思われます。ウナギの保全と持続的利用のために社会のシステムの変革が必要であるという認識が広がり、市民の小さな声が集まって重要な社会問題として提示されていくことこそが、ウナギ減少の問題の解決につながる、唯一の道ではないでしょうか。

2016年7月30日(土用の丑の日)
海部健三

ウナギ属魚類の附属書追加は提案されませんでした

日本時間で2016年5月2日16時過ぎ、ワシントン条約(CITES)事務局が今年9月に開かれる第17回締約国会議(CoP17)で附属書への記載変更の提案を公開しました。ウナギ属魚類は、この提案リストに含まれていませんでした。

CoP17では、EUの提案したウナギ属魚類の取引の実態調査のみが議論されることになるようです。ワシントン条約の締約国会議は3年ごとに開催されますので、EUの提案通りに調査が行われ、その結果附属書への記載が必要と判断されれば、2019年開催のCoP18に対して附属書への記載が提案されることになるでしょう。

日本ができることは、関係国と協力し、実効性のある資源管理の取り組みを進めることです。現状のままでは、3年後に附属書追加が提案される可能性が非常に高いと考えています。

CITES事務局の附属書変更提案リストはココから

ワシントン条約CoP17に対するEUの提案の内容

2016年4月27日に公開された、ワシントン条約第17回締約国会議に対する、ウナギ属魚類に関するEUの提案について、その内容の和訳です。背景については要点のみの抄訳、推薦事項(Recommendation)と添付書類(Annex1)「締約国会議に関する決定案」は全訳です。翻訳は研究室で行いましたが、誤訳に起因する損害等に対する責任は負えませんので、ご理解ください。

Seventeenth meeting of the Conference of the Parties Johannesburg (South Africa), 24 September -5 October 2016
Species trade and conservation
CONSERVATION OF AND TRADE IN ANGUILLA SPP.

背景(抄訳)
漁獲、回遊の阻害、生息域の減少など、様々な危機に直面しているウナギ属魚類については、その生残率を越えて消費してはならない。しかしながら、ウナギ属魚類では、あるひとつの種において漁獲と流通が規制され、供給が減少すると、満たされなくなった需要は、異なる種に向かう。このためウナギ属魚類については、全種をグループとして管理するべきである。
ヨーロッパウナギはワシントン条約(以下CITES)の附属書IIに掲載され、2009年より国際取引が規制されている。CITESによってヨーロッパウナギの国際取引が規制された後、ヨーロッパウナギ以外のウナギ属魚類、特にアメリカウナギとビカーラ種に対する需要が急激に高まった。これらの需要は、かつて大量のヨーロッパウナギを養殖のために購入していたアジアの国々によるものである。東アジアのウナギの輸入は、2010年までは90%がアジア内(60%)またはヨーロッパから(30%)であったが、2011年以降その割合は大きく変化し、近年は30%がアメリカから、35%が東南アジアからの輸入となっている。
ウナギ属魚類については、非持続的な漁獲だけでなく、違法取引も大きな問題である。CITESによる解析、東アジアのウナギ養殖データ、流通業者の情報は、現在もヨーロッパウナギの違法取引が継続していることを示している。
IUCNのレッドリストでは、評価が終了した13種のウナギ属魚類のうち、ヨーロッパウナギ、ニホンウナギ、アメリカウナギ、Anguilla borneensisの4種が絶滅危惧(Threatened)、Anguilla bengalensisAnguilla bicolor(ビカーラ種)、Anguilla celebesensisAnguilla luzonensisの4種が準絶滅危惧にランクされている。
ウナギ属魚類の保全と管理に関する最大の問題のひとつは、情報不足にある。ヨーロッパウナギについても、現在は輸出許可を発行するに足りるデータは存在しない。ウナギ属魚類の全ての種について、生物学的側面、個体群動態、利用と流通について、入手可能な情報の収集と、新たなデータの取得が必要である。

推薦事項(全訳)
個体数と利用(exploitation)に関する情報とデータをさらに入手し、Anguilla種の持続可能な取引の勧告をすすめていくために、締約国会議では本文書に掲載されている情報を考慮に入れ、Annex1に付記された決定案の承認を推薦する。

Annex1 締約国会議に関する決定案(全訳)

事務局に対して
17 x1
事務局は、外部基金を条件として以下を行う:
a) 独立した組織と契約し、ヨーロッパウナギ(Anguilla anguilla)の附属書IIへの記載とその有効性から学んだ事や問題点に関する情報を収集し、調査する。これは特に、無害証明書の発行、施行、問題点や違法取引の明確化を含む。調査は、特にICES/GFCM/IFAAC Working Group Eelによる見解やデータを考慮に入れて行うものとする。
b) 契約した独立組織が、CITESに記載されていないAnguilla種に関する調査を行う。
i) 2009年にヨーロッパウナギが附属書IIに記載された後の流通レベルと、流通パターンにおける変化についてまとめる。
ii) 各種の生態、個体群状態、利用と流通に関して入手できる情報を集め、最新のデータとIUCNウナギ専門家グループによるレッドリスト評価に基づいた情報やデータとの相違が無いかを確認する。
iii) i)~iii)により確認された相違や問題に基づいた実践的ワークショップでの主題を提示する。
c) 第29回動物委員会(AC29)で議論ができるように上記調査の報告書を作成する。
d) 関連する、国、貿易相手国、FAO、IUCNウナギ専門家グループ、ICES/GFCM/IFAAC Working Group Eel、事業者、その他必要に応じて締約国から指名された専門家が参加・協力する実践的なワークショップを適宜開催する。
上記のワークショップでは、決定案17 x1 a、bで記載されたテーマについて議論するものとし、可能であれば色々なウナギ属の種に特定の問題に焦点を当てる。例えば、
i. ヨーロッパウナギの場合、無害証明書発行の実現とガイダンスや、同定の問題を含めた附属書IIの掲載実行。
ii. 他種の場合、国際取引がウナギの様々な成長段階に及ぼす影響について認識を深める方法、その種の確実な持続可能な取引のための施策の考案。
e)第30回動物委員会(AC30)で話し合いができるようにワークショップの報告書を作成する。

Anguilla種の取引を行っている締約国に対して
17 .x2
Anguilla種の取引に関わっている締約国は、事務局とFAOと協力し、以下の行動を取るよう奨励する。
a) 決定案17 .x1、2完遂のために必要な特定の情報を事務局やその業務を請け負う独立組織に提供する。
b) 実践的ワークショップに適宜参加し、専門知識や主題に関する知識を共有する(例:決定案17 .x1 dで例示されたもの)

動物委員会に対して
17 .x3
動物委員会は以下の行動を取る。
a) 第29、30回会議で、決定案17 .x1によって作成された報告書、決定案17 .x2に準じるヨーロッパウナギの生息する国により提出された情報、その他Anguilla種の保護や流通に関する情報について考察する。
b) Anguilla種の持続可能な取引を確実なものにするために、CoP18の締約国に対して推奨事項を提案する。

常設委員会に対して
17 .x4
常設委員会は、第69、70回会議でヨーロッパウナギの違法取引に関する情報について検討し、適宜推薦事項を承認する。

ワシントン条約CoP17に対するEUの提案をどう解釈するべきか

2016年4月27日、EUは今年9月に開催されるワシントン条約第17回締約国会議(CoP17)に対し、ニホンウナギを含むウナギ属魚類全種の流通の現状や個体群動態の調査を行うことを提案しました。(なお、提案の内容、原文については、それぞれの記事をご覧下さい。作成でき次第、順次アップしていきます。、ワシントン条約の役割や、ニホンウナギが掲載された場合の影響等については、ここをご覧下さい。)

それでは、この提案はどのような意味を持っているでしょうか。

(1)まずは調査、次は規制
これが最も重要なメッセージと考えられます。EUは今回、すでに附属書IIに掲載されているヨーロッパウナギをのぞく、15種のウナギ属魚類を附属書に追加する提案は行いませんでした。提案されているのは、あくまで調査です。しかし、調査が提案されたことは、EUがウナギ属魚類の消費や流通の状況を現状のままで良いと考えてはいない、ということを示しています。調査の結果、やはり附属書に掲載し国際取引を規制する必要があると判断された場合は、2019年に開催される第18回締約国会議(CoP18)において、ウナギ属魚類全種の附属書への掲載が提案されることになるでしょう。

(2)分布域外の種であっても提案する
今回EUが発表した文書が強調していた点は、ウナギ流通がグローバルであることです。需要の中心は日本を含む東アジアにありますが、その強力な需要は世界中のウナギ属魚類に影響を及ぼします。このため、特定の種を取引の規制によって保護すると、満たされなくなった需要は別の種に向かいます。取引規制によるヨーロッパウナギの供給減が、アメリカウナギとビカーラ種の消費増大を招いたことが、例として挙げられています。このためEUは、全てのウナギ属魚類をまとめて管理すべきである、と主張しています。ワシントン条約における附属書掲載の変更提案は、当該種の分布域内の国がおもに行ってきました。しかし、分布域外の種であっても、包括的に管理すべき種のグループとして附属書への追加を提案することが、EUの主張によって正当化されます。

つぎに、いまやるべきことについて考えます。
立場によっては、今回のEUの提案について「ニホンウナギのワシントン条約附属書掲載を免れた」と捉える方もいるかもしれません。しかし、現実はむしろ、「詰まれた」状況ではないでしょうか。まず、今回の調査の提案によって、ニホンウナギを含むウナギ属魚類全種が、ワシントン条約における議論の俎上に上りました。さらに、EUの提案通りに調査が行われ、その結果が条約による規制が必要であることを示すものであったとき、締約国会議で附属書掲載に反論することができるでしょうか。現状を維持すれば、2019年の締約国会議でウナギ属魚類全種が附属書に掲載される可能性は非常に高くなるでしょう。
いまやるべきことは、附属書掲載を回避するための、形だけの対策ではなく、本当に持続可能な利用を実現するための実効力のある対策です。やるべきことは多々ありますが、ワシントン条約という文脈で考えたとき、日本が優先的に取り組まなければならないのは、シラスウナギ流通の正常化でしょう。一般に流通しているウナギの半分以上が違法な漁獲や流通を経たものであるという、異常な状態を即刻改善する必要があります。

速報:EUがワシントン条約にウナギ属魚類の調査を提案

EUがニホンウナギを含むウナギ属魚類全種の調査を行うことを、今年9月に開催されるCITES(通称 ワシントン条約)の第17回締約国会議に提案しました。以下のリンクより文書を読むことができます。
後日,内容に関して続報を書きます。

提案文

シラスウナギ漁業管理に光明

静岡新聞が伝えたところによると,県内のシラスウナギ漁獲量が割り当てられた漁獲量上限に達したため,漁期半月を残して今月14日に漁期を終了するという。静岡新聞によれば,漁獲量上限到達による漁期の終了は全国で初。

“シラスウナギ漁、終了前倒し 静岡県内、池入れ上限到達” (静岡新聞SBS、日
本)

シラスウナギは都道府県の漁業調整規則によって漁獲が禁じられており,採捕には知事が交付する特別採捕許可が必要とされる。都府県ごとに採捕量の上限が定められているが,これまで調べたいずれの県においても,設定されていた上限は,常に実際の漁獲量を大幅に上回っていた。つまり,上限量が漁獲量を削減する実効性を持っていなかったのである。昨年度から始まった池入れ量制限に関しても,平成26,27年度の上限(21.6,21.7トン)は,実際の池入れ量18トンよりも20%以上多く,シラスウナギの漁獲量を削減する効果がなかったことが分かっている。

このような状況のなか,日本で初めて漁獲量上限到達による漁期の終了が行われたことは,暗闇の中のひとつの光明にも例えられるだろう。全国で,東アジア全体に広げるべき事例である。今後重要なことは,科学的な知見に基づいて漁獲量の上限を定めることにある。現在の上限量は,近年目だってシラスウナギ漁獲量が多かった2年前のシーズンを基準に、その8割の量と定められている。つまり,全く科学的根拠を持たない上限量である。データが限られている中で決められた上限量なので致し方ない面もあるが,持続的に利用するためには,科学的な根拠に基づいて上限量を決める必要があり,せめて,いつまでにその状況を実現するのか,ロードマップを明確にする必要がある。

「シラスウナギの漁業管理は不可能」という意見もあるなか,今回,静岡県は可能であることを示そうとしている。一見当たり前のように見えるこの判断の重要性を強調するとともに,静岡県の姿勢に敬意を表したい。

海部