投稿者「海部 健三」のアーカイブ

第二回ウナギゼミが開催されました

少し時間が経ってしまいましたが、8月20日に中央大学後楽園キャンパスで開催されたウナギゼミの報告です。
今回は、以下の8報の論文が紹介されました。
要旨の全訳を含む和文の紹介レジュメ(A4二枚)があります。無料でどなたにも配布できますので、ご入用の方は世話人の板倉さん、または海部まで連絡を下さい。
海部へのメールは、メニューの「連絡先」のタブから中央大学の研究者情報ページへ飛び、連絡フォームからお願い致します。

第二回ウナギゼミ紹介論文

  1. Shiraishi, H., and V. Crook. “Eel market dynamics: an analysis of Anguilla production, trade and consumption in East Asia.” TRAFFIC. Tokyo, Japan (2015).
    ウナギの市場の動態:東アジアにおける生産・取引・消費の分析
  1. Arai, Takaomi. “How have spawning ground investigations of the Japanese eel Anguilla japonica contributed to the stock enhancement?.” Reviews in fish biology and fisheries 24.1 (2014): 75-88.
    ニホンウナギの産卵場調査は資源の増大にどのように貢献したか?
  1. Clément, Marie, et al. “What otolith microchemistry and stable isotope analysis reveal and conceal about anguillid eel movements across salinity boundaries.” Oecologia 175.4 (2014): 1143-1153.
    耳石の微量元素と安定同位体分析はウナギの塩分境界を越える移動について何を明らかにして何を隠すのか
  1. Beentjes, M. P., and D. J. Jellyman. “Growth patterns and age validation from otolith ring deposition in New Zealand longfin eels Anguilla dieffenbachii recaptured after 10 years at large.” Journal of fish biology 86.3 (2015): 924-939.
    10 年年後に再捕されたニュージランドオオウナギの⽿耳⽯石の輪輪紋形成による成⻑⾧長パターンと年年齢査定
  2. A review of glass eel migratory behaviour, sampling techniques and abundance estimates in estuaries: implications for assessing recruitment, local production and exploitation
    シラスウナギの回遊行動,サンプリング技術,河口における加入量推定に関する総説:来遊評価,生産性,漁獲圧との連携
  1. Crook, Vicki, and Miki Nakamura. “Assessing supply chain and market impacts of a CITES listing on Anguilla species.” Index Vol. 24: i–iv 9 (2013): 24.
    CITES掲載によるウナギのサプライチェーンと市場への影響の評価
  1. Stacey, Joshua A., et al. “A caution for conservation stocking as an approach for recovering Atlantic eels.” Aquatic Conservation: Marine and Freshwater Ecosystems (2014).
    大西洋ウナギ資源回復のための保護放流への警告
  2. Takeshi Ogawa “Consumer Heterogeneity and Gains from Trade in Renewable Resource Trading:The Case of Both Resource-Good Consuming” (unpublished data)
    消費者の選好の異質性と貿易利益:両資源財消費の場合

 

2015年東アジア鰻資源協議会(上海)レポート

2015年8月7-8日に上海で開催された,東アジア鰻資源協議会(EASEC)の2015年会合に参加してきました。以下,簡単にレポートします。

東アジア鰻資源協議会(East Asia Eel Resource Consortium, EASEC)は,1998年に日中台韓の鰻業界(養殖業,餌料生産業,中間流通業,蒲焼業)と研究者らによって立ち上げられた,研究者と業界の情報交換会です。
近年の資源の減少にともない,東アジアの研究者間での情報共有を進める機能が強くなってきています。昨年からは,フィリピンやインドネシアも参加するようになっています。

会場である上海パラダイスホテルの前で集合写真。 開会式直後に集合写真撮影。中国側の偉い方々はその後いなくなります。

会場である上海パラダイスホテルの前で集合写真。
開会式直後に集合写真撮影。中国側の偉い方々はその後いなくなります。しかし,写真のためだけでもこの場に重要人物が来るということは,それだけ重要視されている,と見ることも可能かも知れないですね。

2015年の東アジア鰻資源協議会は,中国水産科学研究院東海水産研究所がホストとなって行われました。今回の参加国はホストの中国のほか,台湾,フィリピン,日本の4カ国。全体の概観から言えば,非常に上手く運営されていました。以下,会合の中で出てきた議論をいくらか紹介します。

■2015年東アジア鰻資源協議会での議論

<中国>
資源の保全と持続的利用を強く意識した発表が多く,驚かされました。最も面白かったのは,黄河河口域におけるシラスウナギ漁の混獲(目的外の生物の漁獲)を4年にわたって調べた研究です。シラスウナギ漁獲用の定置網に大量のエツが混獲され,死亡しているということです。エツのような経済価値のある水産物だけでなく,様々な生物の混獲に目を向ける姿勢,混獲防止のためにエコ・フレンドリーネットの開発を行おうとする姿勢など,資源や環境に対して真摯に考える姿勢を感じさせる内容でした。
この他,シラスウナギの漁期規制や量的規制など,日本と同じ程度の漁業管理が行われているように見受けられました。しかし今回は,具体的な内容や運用上の問題点について踏み込んだ話しは聞けなかったので,今後確かめていく必要があります。

<台湾>
国立台湾大学の韓玉山副教授は,日中台韓によるシラスウナギの池入れ量制限について,現状の上限は多すぎることを指摘し,近年の平均値40トンを用いるべきだろうと述べました。また,台湾では全ての州にひとつ以上のウナギ保護河川が設定され,ウナギの漁獲が禁止されていることを紹介し,日本や中国などニホンウナギの分布域である他国でも,産卵に寄与する可能性の高い,大きく育った天然ウナギ(特に銀ウナギ)の保護を推進すべきであると主張しました。さらに,台湾で推進されつつある生息域改善の努力を紹介してくれました。
ニホンウナギの河川生活期の研究では第一人者とも言える韓さんのお話は,いずれも科学的データに基づいて保全と持続的利用の議論を進めることを重要視しており,現在の日本の議論にも欠けている部分を厳しく指摘してもらったと感じました。また,韓国の河川で進められている自然再生では,人工のウェットランド(湿地)を河川周辺に配置したり,河川横断構造物を底生生物にも登りやすい形状に直したりと,先進的な工夫がなされており,日本が見習う部分も多いようです。

<韓国>
今回残念ながら,韓国からは参加者がありませんでした。

<フィリピン>
フィリピンにはニホンウナギはほとんど生息していませんが,オオウナギやビカーラ種などの熱帯種が多く存在します。ニホンウナギやヨーロッパウナギの減少に伴い,東アジアの需要はこれら熱帯種にも大きな影響を与えています。フィリピン政府は,2012年よりシラスウナギを含む15cm未満のウナギ全種の輸出を禁じました。フィリピンは中央ルゾン大学のYambot教授によると,シラスウナギの値段が余りにも高騰したため,あらゆる人間がシラスウナギの捕獲に熱中し,子どもまでもが学校に通わずにシラスウナギ捕獲に動員されるようになったそうです。このような社会的混乱を避けるために,政府はシラスウナギの禁輸に踏み切ったと言うことですが,国内のウナギ養殖業を奨励していることからも,あわせて国内産業の発展を狙った措置であることは明らかでしょう。ただし,どうせ消費されるのであれば,国内経済を潤う形の方が望ましいと考え,私はフィリピン政府の決断を指示します。

<日本>
日本からは日本養鰻漁業協同組合連合会の白石会長,東京医科大の篠田博士と,私が発表しました。白石会長からは,日中台韓の池入れ制限が初めてなされた今シーズン,結局実際の池入れ量(18.3トン)は上限の21.6トンに届かなかったことが報告されました。篠田博士からは日本で行われているシラスウナギモニタリング「鰻川計画」の紹介,私は資源量を明らかにするための研究の重要性と,そのために東アジア諸国で情報を共有する必要があることを説明しました。
その後中国,台湾の参加者と話し合い,韓国も含めた四カ国でニホンウナギの資源解析を進めることで合意しました。明日からでも詳細な計画を立てるための準備を始めます。

<その他>
総合討論では,放流の効果や戦略が話題になりました。しかし日本と同様,参加国のいずれも放流による資源増殖効果の検証は進んでいません。放流を漫然と続けるのではなく,資源を回復させる戦略の一部として考えていく必要があるでしょう。
CITESに関しても様々な話題が出ましたが,会長の曾萬年教授からは,CITESで国際取引が禁止されれば,地域の産業にとって喜ばしいのではないかという話しも出ました。確かに,例えば相対的に購買力の低い台湾の養殖業者から見た場合,シラスウナギの輸出が止まれば(現在も禁輸ですが,実際には大量に輸出されている),日本の養殖業者との競争がなくなり,これまでよりも安くシラスウナギを入手できるようになるでしょう。多様な立場の視点を忘れてはならないと思わせる一幕でした。
フィリピンは調査費用の不足が深刻なようで,援助を求めていました。一次産品の国際取引に関して,多くの場合経済的に優位にある輸入国や仲介企業が,当該産品の資源管理に一定の責任を持つ制度の構築が必要だと感じさせられました。

今回の東アジア鰻資源協議会,けして東アジアの専門家が一致団結して保全と持続的利用に向かって邁進しているというわけでもありませんが,数年前に比べると圧倒的に保全と持続的利用に意識が向いており,隔世の感がします。この動きを止まらせることなく,より強く進めることが重要だと感じました。

市民参加型調査「第4回旭川うなぎ探検隊」を開催しました

2015年8月1日(土),晴天の中で「第4回旭川うなぎ探検隊」が開催されました。
この調査は2012年より岡山県岡山市旭川の明星堰で行われている市民参加型魚類相調査で,今回は旭川うなぎ探検隊実行委員会の主催により,旭川南部漁業協同組合連合会,岡山河川事務所,岡山県内水面漁業協同組合連合会,岡山大学理学部,岡山の自然を守る会,岡山県自然保護センター,岡山理科大学,水産総合研究センター増養殖研究所,中央大学法学部海部研究室(五十音順)が協力して運営しました。

旭川うなぎ探検隊の目的は大きく二つ。
(1)常時から継続的な魚類相調査を行うこと
(2)調査を通じて川の自然に親しむこと

今回は岡山大学において,子どもたちの安全管理と魚の取り方指導をしてくれる学生スタッフの事前・事後の学習を行った。岡山大学理学部の「生物学特論」の講義のとして,参加してくれる学生に対し市民参加型調査の意義,河川生魚類調査の基礎,魚類の同定,河川における安全管理などについて事前に講義を行ったのち,当日のイベントに挑んでもらいました。また,イベント後には,数日間の経験について考える振り返りの時間を持つことができました。
旭川うなぎ探検隊では,参加した子どもたちと学生スタッフが少人数のチームを組み,綿密にコミュニケーションをとりながら安全管理と捕獲の指導を行うところにその特徴があります。学生スタッフは運営側から教わり,子どもたちに教える必要があるため,このイベントの中でも最も学びの機会の多い立場ではないかと考えていました。今回からは,ある程度その学びを促進するシステムができ,嬉しい限りです。
安全管理や魚の取り方指導についても,やはり事前指導を行うと効果が違います。来年も可能であれば,「生物学特論」を行いたいところです。

生まれて初めて見にする検索図鑑を使って、捕った魚の同定をする岡山大学理学部の学生さんたち。

生まれて初めて見にする検索図鑑を使って、捕った魚の同定をする岡山大学理学部の学生さんたち。

うなぎ探検隊では、安全管理と魚とりの指導のため、子どもとボランティアの学生数人でチームを作り、行動します。2015年の第4回では、およそ子ども4人を3名の大学生スタッフが担当する、7人のチームが10チーム編成されました。 各チームには始めにカゴ罠が配給され、自分たちで設置します。あとで引き上げると、中にはたくさんの魚が、、、入っている場合も。

うなぎ探検隊では、安全管理と魚とりの指導のため、子どもとボランティアの学生数人でチームを作り、行動します。2015年の第4回では、およそ子ども4人を3名の大学生スタッフが担当する、7人のチームが10チーム編成されました。
各チームには始めにカゴ罠が配給され、自分たちで設置します。あとで引き上げると、中にはたくさんの魚が、、、入っている場合も。

およそ子ども4人、学生スタッフ3人の7人のチームで、タモ網(手に持って使う網)を使って魚を捕ります。水面下に見える水草は魚の恰好の隠れ場。タモ網を下流側に構え、上流から隠れている魚をタモ網に追い込みます。

およそ子ども4人、学生スタッフ3人の7人のチームで、タモ網(手に持って使う網)を使って魚を捕ります。水面下に見える水草は魚の恰好の隠れ場。タモ網を下流側に構え、上流から隠れている魚をタモ網に追い込みます。

捕れた魚は大きな水槽に集め、専門家が種類を分けます。 うなぎ探検隊では、カゴ罠、タモ網、小型定置網、投網など、魚を殺傷しにくい漁法を用い、観察した後、魚は川に返します。

捕れた魚は大きな水槽に集め、専門家が種類を分けます。
うなぎ探検隊では、カゴ罠、タモ網、小型定置網、投網など、魚を殺傷しにくい漁法を用い、観察した後、魚は川に返します。

捕れた魚の説明をする、中央大学専任研究員の脇谷さん(緑のシャツ)。この水域には、ニホンウナギやアユ、ハゼの仲間などたくさんの回遊性魚類(海と川を行き来する魚)が生息しています。うなぎ探検隊では、魚類相調査を進めるとともに、川で捕った魚の中に回遊魚が多く含まれていることを確認し、海と川のつながりの大切さを学ぶことを、重要な目標のひとつと考えています。

捕れた魚の説明をする、中央大学専任研究員の脇谷さん(緑のシャツ)。この水域には、ニホンウナギやアユ、ハゼの仲間などたくさんの回遊性魚類(海と川を行き来する魚)が生息しています。うなぎ探検隊では、魚類相調査を進めるとともに、川で捕った魚の中に回遊魚が多く含まれていることを確認し、海と川のつながりの大切さを学ぶことを、重要な目標のひとつと考えています。

川遊びには安全管理が欠かせません。うなぎ探検隊では参加者全員分の救命胴衣を準備。

川遊びには安全管理が欠かせません。うなぎ探検隊では参加者全員分の救命胴衣を準備。

炎天下で行われるうなぎ探検隊。テントを張って日陰を確保するとともに、水分補給の準備も入念に。

炎天下で行われるうなぎ探検隊。テントを張って日陰を確保するとともに、水分補給の準備も入念に。

日本のウナギ資源に関する調査研究の弱さ IUCNウナギ評価結果をまとめた論文から

2014年に発表されたIUCNによるウナギ属魚類13種の評価結果が学術論文としてまとめられ,2015年8月5日にGlobal Ecology & Conservation誌に発表されました。私もIUCNのウナギ専門家サブグループの一員として執筆に参加しています。
この論文には,ニホンウナギ資源に関する調査研究が,同じ温帯種であるヨーロッパウナギ,アメリカウナギと比較して,非常に遅れていることも示されています(以下,図2を参照)。

■内容概略
この論文では,IUCNレッドリスト評価では一種ごと独立に行われていた評価が,種間で比較されている。その結果として興味深いことのひとつは,分布域は異なっていてもウナギ属魚類がそれぞれ直面している危機の要因は類似しているということだろう。日本ではニホンウナギの減少ばかりが注目されているが,世界中に分布するウナギ属魚類19種亜種(うち13種の評価結果が2014年に発表され,今回の論文の対象となっている)はそれぞれ,ニホンウナギと同様に過剰な消費・開発の影響を受けている。

ウナギ属魚類の間で,現在入手可能なデータの質も比較されている。ヨーロッパウナギ,アメリカウナギ,ニホンウナギのデータの期間と質を比較した図2によると,同じ北半球の温帯域に分布し,近年急激な個体群の減少が報告されているヨーロッパウナギ,アメリカウナギと比較して,ニホンウナギの個体群動態に関するデータが非常に貧弱であることが分かる。
ただし,1から15までランクを付けたデータの「質」に関しては,銀ウナギ,黄ウナギ,シラスウナギの順に線的な質の上下関係を想定している。ウナギ個体群の動態を把握することを目的とした時,この並びが適切なのかどうか,議論もある。しかし,いくらか並び順を変更したとしても,ニホンウナギに関するデータが他の二種より質的に劣っていることには変わりない。
産卵生態の調査では世界をリードする日本ではあるが,資源の管理という視点では,欧米の足元にも及ばないのがその現状だ。

IUCNレッドリスト評価に用いられたニホンウナギ(△),アメリカウナギ(◯),ヨーロッパウナギ(×)のデータの期間と質。データが対象とした地理的範囲は考慮されていない。また、IUCNレッドリストにおける評価では三世代の時間(ニホンウナギの場合は30年間)を基準とするために用いられていないが,日本にはさらに長期間にわたるデータも存在する。

IUCNレッドリスト評価に用いられたニホンウナギ(△),アメリカウナギ(◯),ヨーロッパウナギ(×)のデータの期間と質。データが対象とした地理的範囲は考慮されていない。また、IUCNレッドリストにおける評価では三世代の時間(ニホンウナギの場合は30年間)を基準とするために用いられていないが,日本にはさらに長期間にわたるデータも存在する。

論文は以下のリンクより無料で入手可能です。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2351989415000827

The MIDORI Pressにウナギの記事を書きました

少し前になりますが、生物多様性オンラインマガジン「The MIDORI Press」にウナギの記事を書きました。特に人工種苗生産技術の開発に関する説明は、現在重要視している部分です。社会への実装を目的とした技術開発であれば、その技術が実社会にどのような影響を与えるのか、綿密なシュミレーションが必要です。つまりは、技術アセスメントですね。

MIDORI Press ウナギ記事へ

ニホンウナギとワシントン条約

2016年9月にCITES CoP17(第17回ワシントン条約締約国会議)を控え、ニホンウナギの国際取引がワシントン条約によって規制される可能性が注目されている。そこで、これまでに得られた情報と今後のスケジュールを整理した(新しい情報は後半に)。

ーワシントン条約ー
正式名称 Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)、略称CITES、通称ワシントン条約。野生生物の保全を図ることを目的に、国際取引を規制する。附属書Iに掲載されると商業目的の国際取引は全面禁止。附属書IIに掲載されると、国際取引には個体群に悪影響がないことを示した輸出国の許可が必要となる。対象とする生物の選定は、「条約締約国からの提案→評価→締約国会議における採決」の手続きで行われる。

ーニホンウナギが対象となったらー
ニホンウナギがワシントン条約の対象になる場合、附属書IIと考えられる。この場合、個体群に対してダメージを与えない程度の量であることを証明できれば、輸出国が輸出許可を出して国際取引ができる。しかし、本種の資源量は不明であり、個体群に影響のない消費量を算出できない。つまり、輸出許可を出すことは困難であり、附属書IIへの掲載は事実上の国際取引禁止となる可能性が高い。

ーニホンウナギが提案される可能性ー
現在注目すべきことは、評価開始の始めのステップである「提案」が行われるかどうか、つまり、どの国がニホンウナギをワシントン条約の対象とするよう提案する可能性があるのか、にある。提案することができるのは、基本的には当該種の分布域の条約締約国であり、ニホンウナギの場合は日本、中国、韓国、フィリピンだろう。ニホンウナギを重要な商材と捉えているこれらの国々が、ニホンウナギを対象として提案することは、現状では考えにくい。このほか、分布域外の締約国が提案することも不可能ではないが、提案前に分布域の国々への事前通知または協議が義務づけられており、強いモチベーションを必要とする。このため、ニホンウナギそのものが第17回会議で提案される可能性は高くないだろう。

ー別種とまとめて提案される可能性ー
ニホンウナギが直接提案されなくても、別種とともにグループで規制対象とされる場合がある。ワシントン条約では、類似種をlook-alike speciesとしてまとめて規制の対象とすることがあるからだ。アメリカは、2013年3月に開催された第16回締約国会議に先立ち、提案する種に関するパブリックコメントを募集している(2012年4月11日)。この中には、「提案するかどうかまだ決めていない種」として、アメリカウナギを含むウナギ属魚類全種(すでに附属書IIに掲載されているヨーロッパウナギを除く)が挙げられている。パブリックコメントを募集したのち、最終的には提案にはいたらなかったが、その背景にはアメリカ国内のウナギに関係する業界からの強い反発があったとされている。そこで、ニホンウナギがワシントン条約の対象種となるかどうか、考えるうえではアメリカの動きが重要となる。アメリカは、2016年の第17回締約国会議に向けて、アメリカウナギおよびウナギ属魚類全種を評価対象種として提案するのか。附属書IIに掲載された場合、日本がニホンウナギを含むウナギ属魚類を輸入することは、非常に難しくなるだろう。

ーアメリカ国内の動きー
前回、2013年第16回締約国会議の前に、アメリカがアメリカウナギおよびウナギ属魚類を「提案するかどうかまだ決めていない種」としてパブリックコメントに付した背景のひとつに、SSN(Species Survival Network )とWWF(World Wildlife Fund)の二つの自然保護団体から提案すべきとの要請があったことが挙げられている(パブコメ募集資料11ページ6行目)。次の第17回締約国会議に向けての動きとしては、すでに昨年夏、やはり自然保護団体のWCS(Wildlife Conservation Society)がアメリカウナギを附属書IIに掲載することを提案すべきとの要望をアメリカ政府に提出している(2014年8月25日)。前回要請を行ったSSNとWWFが今回は要請を見送る要素は存在せず、おそらくこのままの流れで行けば、アメリカ国内の自然保護団体からの要請は、2013年の第16回会議のときよりも強くなるだろう。
さらに、前回の第16回締結国会議と状況を大きくことにしている要素は、2014年11月にIUCN(国際自然保護連合)により、アメリカウナギが絶滅危惧種(Endangered, ニホンウナギと同じレベル)に指定されたことだ。このことにより、アメリカ国内の自然保護団体がアメリカウナギをワシントン条約の対象種とする動きが活性化されるだろう。WCSの要請はそのひとつとも考えられる。また、前回のようにパブリックコメントで業界からの反対を受けても、提案を強行する可能性も考えられる。

アメリカ政府第16回締約国会議へ向けたパブコメ募集は以下のURLから。
http://www.fws.gov/international/cites/cop16/3rdfederalregisternoticeweb.pdf
WCSの要請は以下のUELから。
http://www.noticeandcomment.com/FWS-HQ-IA-2014-0018-0058-fcod-1647984.aspx

ー今後のスケジュールー
第17回締約国会議は、2016年9月に予定されている。締約国から新たな評価対象種の提案がなされるのは、会議の3ヶ月前が期限ということだが、アメリカ政府は会議の9ヶ月前にパブコメを募集、4ヶ月前に提案するかどうかを決定するということだ。アメリカの今後の動きが注目される。

アメリカ政府からの情報は以下のURLから。
http://www.fws.gov/policy/library/2014/2014-15024.html

なお、この記事は2015年3月14日にFB水産学若手の会に掲載したものを改変したものです。

TRAFFICから、アジアにおけるウナギ生産・流通・消費に関するレポートが発表されました

野生動物の国際取引を監視するTRAFFICより、アジアにおけるウナギの生産・流通・消費に関する調査結果が発表されました。
以下のリンクよりご覧下さい。

過去10年の東アジアのウナギの稚魚の輸入記録の多くは、輸出国の記録と一致しないことが多い。税関や押収データ、その他の情報によると、ウナギの稚魚が大量にヨーロッパ、フィリピン、インドネシアから東アジアに、また東アジア域内で違法に取引されていることが示されており、東アジアの養殖場で違法に調達された稚魚が依然として使われていることが示唆される。EUが稚魚を輸出禁止として数年経っても未だ中国からの再輸出が続くヨーロッパウナギの合法性だけでなく、東アジアで違法に採捕・取引され続けているニホンウナギの合法性にも疑問がある。」(TRAFFICホームページより)

TRAFFIC  ウナギ市場の動態:東アジアにおける生産・取引・消費の分析