ニホンウナギとワシントン条約

2016年9月にCITES CoP17(第17回ワシントン条約締約国会議)を控え、ニホンウナギの国際取引がワシントン条約によって規制される可能性が注目されている。そこで、これまでに得られた情報と今後のスケジュールを整理した(新しい情報は後半に)。

ーワシントン条約ー
正式名称 Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)、略称CITES、通称ワシントン条約。野生生物の保全を図ることを目的に、国際取引を規制する。附属書Iに掲載されると商業目的の国際取引は全面禁止。附属書IIに掲載されると、国際取引には個体群に悪影響がないことを示した輸出国の許可が必要となる。対象とする生物の選定は、「条約締約国からの提案→評価→締約国会議における採決」の手続きで行われる。

ーニホンウナギが対象となったらー
ニホンウナギがワシントン条約の対象になる場合、附属書IIと考えられる。この場合、個体群に対してダメージを与えない程度の量であることを証明できれば、輸出国が輸出許可を出して国際取引ができる。しかし、本種の資源量は不明であり、個体群に影響のない消費量を算出できない。つまり、輸出許可を出すことは困難であり、附属書IIへの掲載は事実上の国際取引禁止となる可能性が高い。

ーニホンウナギが提案される可能性ー
現在注目すべきことは、評価開始の始めのステップである「提案」が行われるかどうか、つまり、どの国がニホンウナギをワシントン条約の対象とするよう提案する可能性があるのか、にある。提案することができるのは、基本的には当該種の分布域の条約締約国であり、ニホンウナギの場合は日本、中国、韓国、フィリピンだろう。ニホンウナギを重要な商材と捉えているこれらの国々が、ニホンウナギを対象として提案することは、現状では考えにくい。このほか、分布域外の締約国が提案することも不可能ではないが、提案前に分布域の国々への事前通知または協議が義務づけられており、強いモチベーションを必要とする。このため、ニホンウナギそのものが第17回会議で提案される可能性は高くないだろう。

ー別種とまとめて提案される可能性ー
ニホンウナギが直接提案されなくても、別種とともにグループで規制対象とされる場合がある。ワシントン条約では、類似種をlook-alike speciesとしてまとめて規制の対象とすることがあるからだ。アメリカは、2013年3月に開催された第16回締約国会議に先立ち、提案する種に関するパブリックコメントを募集している(2012年4月11日)。この中には、「提案するかどうかまだ決めていない種」として、アメリカウナギを含むウナギ属魚類全種(すでに附属書IIに掲載されているヨーロッパウナギを除く)が挙げられている。パブリックコメントを募集したのち、最終的には提案にはいたらなかったが、その背景にはアメリカ国内のウナギに関係する業界からの強い反発があったとされている。そこで、ニホンウナギがワシントン条約の対象種となるかどうか、考えるうえではアメリカの動きが重要となる。アメリカは、2016年の第17回締約国会議に向けて、アメリカウナギおよびウナギ属魚類全種を評価対象種として提案するのか。附属書IIに掲載された場合、日本がニホンウナギを含むウナギ属魚類を輸入することは、非常に難しくなるだろう。

ーアメリカ国内の動きー
前回、2013年第16回締約国会議の前に、アメリカがアメリカウナギおよびウナギ属魚類を「提案するかどうかまだ決めていない種」としてパブリックコメントに付した背景のひとつに、SSN(Species Survival Network )とWWF(World Wildlife Fund)の二つの自然保護団体から提案すべきとの要請があったことが挙げられている(パブコメ募集資料11ページ6行目)。次の第17回締約国会議に向けての動きとしては、すでに昨年夏、やはり自然保護団体のWCS(Wildlife Conservation Society)がアメリカウナギを附属書IIに掲載することを提案すべきとの要望をアメリカ政府に提出している(2014年8月25日)。前回要請を行ったSSNとWWFが今回は要請を見送る要素は存在せず、おそらくこのままの流れで行けば、アメリカ国内の自然保護団体からの要請は、2013年の第16回会議のときよりも強くなるだろう。
さらに、前回の第16回締結国会議と状況を大きくことにしている要素は、2014年11月にIUCN(国際自然保護連合)により、アメリカウナギが絶滅危惧種(Endangered, ニホンウナギと同じレベル)に指定されたことだ。このことにより、アメリカ国内の自然保護団体がアメリカウナギをワシントン条約の対象種とする動きが活性化されるだろう。WCSの要請はそのひとつとも考えられる。また、前回のようにパブリックコメントで業界からの反対を受けても、提案を強行する可能性も考えられる。

アメリカ政府第16回締約国会議へ向けたパブコメ募集は以下のURLから。
http://www.fws.gov/international/cites/cop16/3rdfederalregisternoticeweb.pdf
WCSの要請は以下のUELから。
http://www.noticeandcomment.com/FWS-HQ-IA-2014-0018-0058-fcod-1647984.aspx

ー今後のスケジュールー
第17回締約国会議は、2016年9月に予定されている。締約国から新たな評価対象種の提案がなされるのは、会議の3ヶ月前が期限ということだが、アメリカ政府は会議の9ヶ月前にパブコメを募集、4ヶ月前に提案するかどうかを決定するということだ。アメリカの今後の動きが注目される。

アメリカ政府からの情報は以下のURLから。
http://www.fws.gov/policy/library/2014/2014-15024.html

なお、この記事は2015年3月14日にFB水産学若手の会に掲載したものを改変したものです。

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