米国、アメリカウナギを絶滅危惧種に指定せず。ワシントン条約への提案も見送りか

昨日、米国の漁業・野生生物局(U.S. Fish & Wildlife Service、略称FWS)が、アメリカウナギをESA(Endangered Species Act)の対象とはしないことを発表しました。ESAは日本でいうレッドリストと種の保存法を一緒にしたようなもので、ESAの対象になると捕獲の規制を含めた厳しい保全措置がとられることになります。

今回のFWSの発表は、ニホンウナギにも少なからず影響します。米国は来年開催されるワシントン条約の締約国会議で、アメリカウナギを含むウナギ属魚類全種を、附属書II(国際的な商取引の規制)の対象として提案するかどうか検討しています。10月26日にはパブリックコメントが閉切られ、来年の始めには提案するかどうか結果が出るかと思われますが、その決定を下すのは今回の決定と同じくFWSです。今回、FWSがアメリカウナギをESAの対象にしなかったということから、ワシントン条約への提案も見送られる可能性が高いと考えられます。その場合、ニホンウナギも同時に提案されることはありません。ただし、これはあくまで米国による提案の可能性が低くなったということであり、その他の国の行動については、まだ予断を許しません。

米国がアメリカウナギをESAの対象にしなかったことは、EUがヨーロッパウナギの保全を強く押し進めていることと好対照をなしています。漁獲量の減少率でいえば、アメリカウナギの方がヨーロッパウナギよりも減少しているにも関わらず、です。アメリカとEUでの大きな違いは、ウナギに対する市民の親しみの度合いが関与しているのではないか、との考えがあります。ヨーロッパでは、ウナギは栄養価の高い食べ物であり、自然史を語るうえでも重要な登場人物です。しかし、米国の、特に入植者の子孫はウナギ料理にも、ウナギの生態にも親しみがありません。人間が持つ、生き物に対する親しみの度合いが、その将来を決定しているのでしょうか。

今回、米国はアメリカウナギをESAの対象としませんでしたが、報道資料の中に見られる対策の数々には、見習うべきものが数多く存在します。アメリカウナギの個体群動態は、ニホンウナギと比較してずっと科学的に調査されています。また、遡上と降河をスムーズにするために、魚道のような対症療法ではなく、必要性の低いダムの撤去といった、根本的な対策を進めています。さらに、シラスウナギの売買には必ずクレジットカードなど、追跡可能な支払い方法を用いることも義務づけています。アメリカやヨーロッパの良い部分を進んで学ぶことで、ニホンウナギを保全し、持続的に利用する道が見えてくるかもしれません。

以下は、発表された報道資料の訳です。急いで書いたので、もし誤りがあってもご勘弁を。意訳したところも多いです。

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米国国魚類・野生生物局ニュース・リリース
「アメリカウナギ個体群は安定しており、絶滅危惧種保護法(ESA)の適用を必要としていない」
(訳:中央大学 海部健三)

米国魚類野生生物局は本日、アメリカウナギの個体群は安定しており、絶滅危惧種保護法(ESA)の下での保護を必要としないことを発表した。とうぜん、長期の安定性のためには、健全な生息地を維持し、漁獲量を監視し、魚道を整備することが推奨される。

アメリカウナギは北大西洋のサルガッソー海で生まれ、死亡する。北グリーンランドから南ベネズエラで育ち、成熟した何百万ものアメリカウナギが、産卵のためにサルガッソー海を目指し、数百万の稚魚が淡水域、河口域および海水域に戻ってくる。その繁殖行動はランダムで、単一の任意繁殖集団を形成している。西半球の水圏生態系において、文化的にも生物学的にも重要な生き物である。ネイティブアメリカンによって何千年もの間捕獲され、初期の入植者の食生活においても重要な部分を占めていた。

12ヶ月の所見でもある本日の決定は、アメリカウナギをESAの対象とすべきという2010年の申立てに関する詳細な審査と同様のものである。審査は、おもに米国海洋大気庁・漁業、米国地質調査所、米国森林局、大西洋州米国海洋漁業委員会のウナギ専門委員会および学術界によってチェックされている。過去、現在、将来に本種が直面する危機に関する科学的、商業的情報を調べた結果、アメリカウナギ個体群は全体的に安定しており、(安定全体的ではなく、絶滅の危機にある(絶滅危惧種)、または近い将来絶滅の危機を迎える可能性はないと判断した。

アメリカウナギはいまだ、漁獲や、水力発電による死亡の危機に直面しているが、これらは種全体を脅かしてはいない。漁獲割当量の設定とダムなどを越えるためのウナギの通り道の整備により、悪影響は低減されている。また、ダムや暗渠の撤去、夜間の水力発電の停止、および再整備された流路構造は、多くの地域で生息地へのアクセスを回復させた。当局は、アメリカウナギやその他の回遊魚種の長期的な安定性を確保するため、パートナーと協力して保全活動を進めている。2009年以来、北東部漁業プログラムは単独で、すでに200以上の遡上・降河の障壁を撤去または改善し、1,200マイル以上、12,000エーカー(訳者注:約5千万平米)以上の生息域を、アメリカウナギを含む水生や生成物に開放した。当局はまた、コネチカット、メリーランド州、ニュージャージー州とロードアイランド州で13のダムを除去して魚の通り道を確保するため、10.4万ドルの資金を確保した。

過去百年以上にわたる生息地の喪失と個体数の減少にもかかわらず、アメリカウナギは本来の分布域に広く分布している。淡水で成長するとされていた過去に知見と異なり、アメリカウナギは河口や沿岸域も柔軟に利用することが明らかにされている。

当局がアメリカウナギを評価し、ESAの対象とにはならないとするのは二度目となる。始めの決定は、広範な状況を検討した後、2007年に下された。今回の12ヶ月間にわたる調査は2015年10月8日に発表される。報告書と補助的な文書は、http://www.fws.gov/northeast/americaneel/で見ることができる。

(訳者注:あとは省略)

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参考ウェブサイト:

今回の報道資料
FWS
北東部漁業プログラム
ワシントン条約第17回締約国会議に関するパブリックコメントの募集

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