2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について 序:「歴史的不漁」をどのように捉えるべきか

2017年末から2018年1月現在までの、シラスウナギの採捕量は前年比1%程度と、極端に低迷しています。この危機的な状況を受け、当研究室では「2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について」と題し、全6回程度の連載で、課題の整理と提言を行うこととにしました。初回は序章「「歴史的不漁」をどのように捉えるべきか」として、不漁の要因の捉え方について考えます。

「シラスウナギ歴史的不漁」報道
2017年末から、ウナギ養殖に利用するシラスウナギの不漁が伝えられています。

シラスウナギ不漁深刻 県内解禁15日、昨年比0.6%」(宮崎日日新聞 2017年12月27日)
極度の不漁 平年の100分の1、高騰必至」(毎日新聞 2018年1月15日)

これらの報道によれば、国内外のニホンウナギのシラスウナギ採捕量は、前年同月比で1%程度にとどまっています。1月17日の新月、同じ月の中でもシラスウナギが大く来遊するとされる、いわゆる「闇の大潮」でも、採捕量は伸びていないようです。過去には、漁期を過ぎた5月、6月に来遊のピークが観察された年もあり(Aoyama et al. 2012)、2月以降の来遊が全く期待できないわけではありません。しかし、シラスウナギ漁期が3月から4月にかけて終了することを考えると、今期養殖場に供給されるシラスウナギの量が大きく減少することは、避けられないでしょう。

シラスウナギ不漁の要因
今期の、シラスウナギ採捕量の大幅な減少には、どのような要因が影響しているのでしょうか。採捕者の減少と、シラスウナギ来遊量の減少の二つの要因が想定されますが、前年同期比1%という極端な減少が、採捕者の減少によってもたらされているとは考えにくいため、シラスウナギの来遊量そのものが減少したと考えるべきです。

では、シラスウナギの来遊量はなぜ減少したのでしょうか。来遊量を減少させる要因についても、海洋環境と個体群の減少の、二つの要因を想定することができます(当然、これらの要因は複合して影響しすると考えられます)。海洋環境について、エルニーニョ現象が生じている年にはシラスウナギの来遊量が減少することが知られていますが(Kim et al. 2007)、気象庁によれば、現在はエルニーニョとは反対の現象、ラニーニャ現象が生じていると考えられており(気象庁 エルニーニョ監視速報No. 304)、来遊量の減少をエルニーニョで説明することはできません。エルニーニョ以外に考慮すべきは、黒潮の蛇行です。現在黒潮は東海沖で大きく蛇行しています(JAMSTEC 黒潮親潮ウォッチ)。ニホンウナギのシラスウナギは黒潮に乗って北上するため、黒潮が蛇行し、日本から離れることによって、日本への接岸が難しくなる可能性が想定されます。しかし、東海沖における黒潮の蛇行によって、台湾も含めた東アジア全体のシラスウナギ採捕量の激減を説明することは困難です。このほか、来遊経路の渦の状態(Tzeng et al. 2012)や、フィリピン・台湾振動(Philippines-Taiwan Oscillation)がニホンウナギの来遊量に影響を与えること(Chang et al. 2015)なども報告されていますが、今期の採捕量減少との関係は明確ではありません。

海洋環境の影響も十分に考えられますが、今期のシラスウナギ来遊量減少を説明することは困難です。このような状況で、主要な要因として強く疑われるべきは、個体群の減少でしょう。個体群が減少すれば、当然来遊量は減少します。問題は、前年同期比99%減という急激な減少を、個体群の減少で説明できるのか、ということにあります。この問題については、次回の記事において、生態学の視点から考察したいと思います。ここでは、予防原則の考え方からも、個体群減少を要因として疑うことが支持される点について、確認しておきます。黒潮の蛇行など、今期に特異的な海洋環境によってシラスウナギの来遊が減少したのであれば、来期以降回復する可能性もあります。しかし、ニホンウナギ個体群の減少によって産卵数及びシラスウナギ来遊量が減少した場合、来遊量を回復させることは非常に困難です。今期の「シラスウナギの歴史的不漁」の主要な要因がニホンウナギ個体群の減少にあった場合、ニホンウナギの絶滅の可能性を危機的なレベルにまで増大させるばかりでなく、社会、経済にも大きな影響を与えるでしょう。もたらされる影響の大きさを考えると、予防原則の考え方に基づき、最悪の事態である「ニホンウナギ個体群の減少」が主要な要因であると想定して、早急に対策を進める必要があります。

必要とされる対策の提言について
これから約1ヶ月半に渡り、現状の整理と必要とされる対策の提案を、このブログを通じて行います。毎週月曜日に、以下の内容で記事を更新する予定です(タイトルは仮のものです)。また、今後シラスウナギの来遊量が回復する可能性も考えられますが、中長期的には減少傾向にあります。このため、2月以降に「不漁」が改善した場合でも、連載は継続いたします。なお、ニホンウナギの保全と持続的利用の現状について情報を必要とされている方は、「ウナギレポート」をご覧ください。さらに詳しい情報を必要とされている場合は、拙著「ウナギの保全生態学」をご覧ください。

「2018年漁期 シラスウナギ採捕量の減少について」連載予定
序:「歴史的不漁」をどのように捉えるべきか(本日)
1:ニホンウナギ個体群の「減少」 〜重要な考え方は予防原則とアリー効果〜(1月29日)
2:喫緊の課題はシラスウナギ池入れ制限量の見直し(2月5日)
3:生息環境の回復 〜「石倉カゴ」はウナギを救うのか?〜(2月12日)
4:ニホンウナギの保全と持続的利用を進めるための法的根拠(2月19日)
5:より効果的な放流とは(2月26日)
6:新しいシラスウナギ流通(3月5日)

引用文献
Aoyama, Jun, et al. “Late arrival of Anguilla japonica glass eels at the Sagami River estuary in two recent consecutive year classes: ecology and socio-economic impacts.” Fisheries science 78.6 (2012): 1195-1204.

Chang, Yu-Lin, et al. “Impacts of interannual ocean circulation variability on Japanese eel larval migration in the western north Pacific Ocean.” PloS one 10.12 (2015): e0144423.

Kim H, Kimura S, Shinoda A, Kitagawa T, Sasai Y, Sasaki H (2007) Effect of El Niño on migration and larval transport of the Japanese eel (Anguilla japonica). ICES Journal of Marine Science, 64, 1387-1395.

Tzeng WN, Tseng YH, Han YS, Hsu CC, Chang CW, Di Lorenzo E, Hsieh CH (2012) Evaluation of multi-scale climate effects on annual recruitment levels of the Japanese eel, Anguilla japonica, to Taiwan. PLoS ONE 7:e30805.

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